最優秀作品賞は「3年A組―」 福井雄太P『菅田将暉は“真面目で一生懸命”の権化』【ドラマアカデミー賞】
「『本当は言いたい。本当は聞きたい』気持ちを表現するのがフィクション」
――主人公の一颯(菅田将暉)のセリフ、「悪意にまみれたナイフで汚れなき弱者を傷つけないように変わるんだよ」という言葉が印象的でした。
局内でもよく「お前の作るドラマは説教くさいな」と言われるんですが(笑)、今回もそうだったと思います。そんな強い思いが上滑りしてしまうか、『Let's think』(考えよう)というメッセージを受け取ってくれるかで、ドラマの価値が全然違ってきますから、見た人がその思いをキャッチしてくださったのが本当にありがたい。
もちろん、普段のつきあいで一颯のように説教をしたら嫌がられるけど、人間にはどこかで『本当は言いたい。本当は聞きたい』という気持ちもあるはず。それをまっすぐに表現するのがフィクションの役割だと思っています。最終回で一颯が言う「誰かひとりにでも伝わればいい」という言葉のとおり、一撃で大きな変化を起こすのは不可能だけれど、「涓滴(けんてき)岩を穿つ」というように、何かを変えるきっかけになることはできるんじゃないか。そういう気持ちでした。
――その訴えの動機を、SNSのバッシングに追い詰められて自殺した澪奈(上白石萌歌)という題材にしたのはなぜでしょうか。
もともと、社会的な事件からダイレクトに影響を受けてドラマを作るタイプではないのですが、考えるきっかけはありました。脚本の武藤将吾さんと「今の子たちって、こういうことに悩んでいるよね」というディスカッションをし、「僕にもいろいろ思うところがあるんです」と話しているうちに、SNSによって苦しめられる澪奈という人物ができました。
ただSNSだけではなく、劇中では同級生たちが「俺たちは悪くない」と思ってやっていたことも澪奈を追い詰めていたわけです。無自覚に誰かを苦しめている人に気付きを持ってほしいなという思いがあり、他人の心の痛みを想像する感覚が薄れてきてしまっていることへの寂しさというか、それを訴えたかったところはあります。
――架空のSNS「マインドボイス」はどうやって作り出したのでしょうか。
投稿内容のテキストは助監督たちが作ってくれました。最初の段階では、僕がそれをチェックして「SNSではこんな言い方しないよ」とダメ出ししたり、「いや、逆に今だから使うか」とOKしたりしました。というのも、僕にはネット民なところがあって(笑)、リアリティーを追求したかったんです。
ただ、マインドボイスがリアルに見えたのは、演出の勝利だと思います。台本に書いてあることをビジュアル化するとき、既存のSNSに似すぎてもいけないし離れすぎていてもいけない。さらに、ユーザーたちが事件を対岸の火事として楽しんじゃっているように見せるのは難しいと思いました。だから、小室Dが第1話で東京の街をコメントが覆い尽くす場面を作り上げたとき、すばらしい発想だと思いました。現実のSNSでは完成したテキストが投稿されるけれど、1文字ずつ出てくることで、ユーザーが今まさに発信しているという感じが出ていましたね。