…きっと、りくちゃんのこと、ずっと考えてたんですよね
――りくにプロポーズするシーンの撮影はいかがでしたか?
小松勝としては、オリンピックが中止になって戦争が近づいてきたので、東京に残る意味がないんですね。
熊本に帰った方がいいと金栗先生にも言われるけど、もう一つの心残りだったのがりくちゃんの存在で。多分、小松勝が金栗先生といない時って、結構りくちゃんとの時間が多かったと思うんです。その時間の景色を思い浮かべながら走っていたら、りくちゃんが後ろから現れてきた感じで…きっと、りくちゃんのこと、ずっと考えてたんですよね。
そのタイミングで現れてきたので、「今、思いを伝えないと! 何か繋ぎ留めないと!」という思いが、あの告白の形になったのかなと思います。
大声を出して芝居をしたんですけど、杉咲さんにはすごい無視されました(笑)。一度も振り向いてくれなくて。そういうシーンなんですけど、本当に一回も目が合わなかったです。
――りくと小松勝が無事に結ばれた中、戦争が二人の間に影を落とします。りくの父・増野と小松勝は、そのことで衝突するシーンがありますよね。
僕がこんなこと言っていいのか分からないですけど、素晴らしかったです。
僕(小松勝)が戦争に行くことが決まって、重たい雰囲気がある中、「歌いましょう!」とか言って、何とか明るくする、そしたらガラガラと入ってくるのが増野さんで、その瞬間に空気がバチンと変わるんです。本番では、ものすごい迫力でした。
その迫力って何なんだろうと考えると、やっぱり子を思う父の姿だからなのかなと。「なんで約束を守ってくれなかったんだ」というせりふがあったんですけど、関東大震災があって、シマさんが行方不明になって、相当大変な思いでりくちゃんを育てた父親の姿というか、それが目の前で伝わってきました。
僕もどんどん感情があふれてきて、佑さんのすごみに一気に引っ張られましたね。実感としては、とってもいいシーンになったんじゃないかなと思ってます。
オリンピックを目指していた青年が戦争に行って、それによってオリンピックがなくなっちゃって、愛する人とも引き離されるという、ものすごく悲劇にも関わらず、その場にいる全員で「バンザーイ、バンザーイ」って言っていることが、とても皮肉なシーンだなとも思います。
その時も思ったんですけど、ふと見渡したときに、素晴らしいキャストしかいなくて、勘九郎さん初め、綾瀬(はるか)さんだったり、柄本佑さん、三宅弘城さん、杉咲(花)さんも。
どこをとっても素晴らしくて、そういうキャストの方々が重層的に重なって作り上げたシーンは、いいものになってるんじゃないかなと思いますし、自分も追いついていかなきゃなという思いでやってました。
第38回のシーンは、なんかこう、震えるものがありましたね。