脚本賞は「テセウスの船」高橋麻紀氏『親子の必死な思いが届いたからこそ』【ドラマアカデミー賞】
大事に描こうと思ったのは「息子と父親の関係」
――謎解きの面では、どんなことを工夫されたのでしょうか?
10話をかけて真相に近づいていくので、見る人を退屈させないため、できる限り登場人物全員が怪しく見えるように、“犯人候補”から外されないようにと意識しました。また、各話のラストで「えっ! どうなっちゃうの!?」という驚きと次週への期待感が高まるように構成を考えたつもりです。
――人間ドラマとして特に大事に描こうと思ったのは誰と誰の関係でしょうか。
佐野家の家族愛や、心と由紀との関係も重要でしたが、やはり一番は息子(心)と父親(文吾)の関係です。原作の東元俊哉先生もそこを大事にされていたので、ドラマではオリジナル要素も加えつつ、さらに深く描くことに注力しました。全ての出来事の根幹には、「父の冤罪を晴らし、ばらばらになった家族の幸せを取り戻したい」という心の切実な思いがあります。
これはすばらしい原作のおかげでもありますが、決して強い人間ではない心が、父を救うため不器用にひたむきに戦う姿は、書いている私自身も「負けるな、心さん!」という気持ちになりました。竹内涼真さん、鈴木亮平さんを筆頭に全ての役者さんの熱演により、心と文吾親子の必死な思いが視聴者の皆さんに届いたからこそ、「佐野家に幸せになってほしい」と応援していただけたのだと思います。
――書いていて共感したセリフを教えて下さい。
心のセリフで「プロレスしたりバカ言い合ったり、わいわいご飯食べたり。それって当たり前のことじゃないんです。ある日突然、壊れちゃうことだってあるんです。家族が一緒に笑ってられるって…すごく幸せなことなんです」です。
もう一つ、佐野家全員で夜空を見上げたとき、「星が全然見えないね」と言った慎吾に対し、文吾が「でも、消えてなくなるわけじゃない。たまたま見えない日もあるけど、見えないだけでずうっと輝いてんだぞ」と言ったセリフも気に入っています。