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<西野亮廣>ゴミ人間〜『えんとつ町のプペル』誕生の背景と込めた想い〜「えんとつ町のプペルが生まれた日」【短期集中連載/第4回】

2020/09/14 19:00


あの日を境に世界は駆け足で正しくなりました。夢を語れば笑われて、行動すれば叩かれてしまうので、もう誰もバカなことを言い出しません。もう誰も見上げることをしません。皆、足元を確認しながら歩くようになりました。互いの行動を監視し合い、少しでも踏み誤ると容赦なく叩く。おかげで世界はすっかり正解で溢れましたが、まもなく僕らは、正解で溢れた世界がこんなにも息苦しいことを知ります。だけど、誰も、この世界の緩め方を知りません。きっと僕らは、こんな未来を望んでいなかったハズです。この状況を描いたのが『えんとつ町のプペル』です。

2016年秋に発売された、絵本『えんとつ町のプペル』。分業制による制作体制や全文無料公開など、前代未聞のアプローチが話題を集めた
2016年秋に発売された、絵本『えんとつ町のプペル』。分業制による制作体制や全文無料公開など、前代未聞のアプローチが話題を集めた『えんとつ町のプペル』 幻冬舎刊


どうして僕を殴るのだろう?


煙突から上がった黒い煙のせいで、『えんとつ町』に住む人は、青い空も輝く星も、見上げることも知りません。そんな中、空を見上げようとする者を、町の皆は容赦なく攻撃します。これは現代社会の縮図であり、当時の僕が置かれていた環境です。

僕は、自分の人生の時間を使って、自分の身体を使って、自分が責任を取れる範囲で挑戦をしているのに、どういうわけか日本中から殴られ続けます。僕が「ひな壇」を辞退し、僕が絵本作家になることで、皆にどんな迷惑がかかっているのだろう? どうして皆はわざわざ僕に時間を使い、僕の行動を逐一チェックし、わざわざ僕を殴るのだろう?

そこで、彼らを敵に回すのではなく、彼らに寄り添って考えてみることにしました。「きっと彼らにも痛みがあるハズだ」と。

そりゃ、悔しいですよ。自分を殴ってくる人間に、自分から寄り添うなんて。ですが、彼らが挑戦者を執拗に殴り続ける理由を正確に割り出さない限り、『えんとつ町』という問いが解けることはありません。この世界を覆う煙が消えることはありません。そう覚悟した日から、この息苦しい世界の正体が見えてきました。原因を整理すると、きっとこんなところです。

・皆、もともと、夢の類を持っていたのだけれど、大人になる過程で、己の能力や環境を鑑みて、折り合いをつけて捨ててしまった。

・そんな中、「皆が折り合いをつけて捨てたモノ(=ゴミ)」をいまだ持ち続け、丁寧に磨き、輝かせようとしている者がいる。

折り合いをつけて捨てた人達からすると、なんとも迷惑な話です。まかり間違って、そのゴミが輝いてしまうと、あの日、夢を捨ててしまった自分の判断が間違いだったことを認めなくちゃいけなくなります。そりゃ、「さっさと捨てろよ」という考えにもなる。

「ゴミ人間」は、皆が折り合いをつけて捨てた夢の集合体。そして「ゴミ人間」は、折り合いをつけて夢を捨てた人達の間違いを証明しようとしている。無自覚に。これは「脅し」に近い行為です。実は、先に攻撃を仕掛けているのは、「ゴミ人間」の方で、これこそが挑戦者が皆から殴られる理由だと結論しました。

僕はずっと被害者だと思っていたのですが、こうして切り取る角度を変えてみると、ご覧のとおり加害者です。『えんとつ町』というテーマを選んでおいて、ここを描かないのは(一方の視点からしか描かないのは)フェアではないので、『えんとつ町のプペル』には「殴ってしまう人」の物語(痛み)もキチンと入れることに決めました。

絵本『えんとつ町のプペル』より。煙に覆われた「えんとつ町」でただ一人星の存在を信じ、ゴミ人間・プペルと仲良くするルビッチは、時に周囲の人間から迫害を受けてしまう
絵本『えんとつ町のプペル』より。煙に覆われた「えんとつ町」でただ一人星の存在を信じ、ゴミ人間・プペルと仲良くするルビッチは、時に周囲の人間から迫害を受けてしまう『えんとつ町のプペル』 幻冬舎刊


すべては映画のチラシだった


ところが、今、お話しした「殴ってしまう人」の物語は、絵本『えんとつ町のプペル』には出てきません。さらには、「えんとつ町」という町が生まれた理由も、町を支配している「異端審問所」も、なによりも、物語の主人公である「ブルーノ」という紙芝居屋も、絵本『えんとつ町のプペル』には出てきません。この話をすると、いつも少しだけ驚かれます。

冒頭に申し上げたとおり、僕は作品に興味があり、届け方(アプローチ)を決めるのは、その後。まずは自分が描きたいものを全力で描き殴って、「さて、どう届けようかしら?」という順番です。

下に続きます
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◼︎『映画 えんとつ町のプぺル』特報【12月25日公開】

PROFILE●1980年、兵庫県生まれ。芸人・絵本作家。1999年、梶原雄太と「キングコング」を結成。2001年に深夜番組『はねるのトびら』のレギュラー出演決定と同時に東京進出を果たす。同番組がゴールデン枠に移行した2005年に「テレビ番組出演をメインにしたタレント活動」に疑問を持ち、「自分の生きる場所」を模索。2009年に『Dr.インクの星空キネマ』で絵本デビューを果たす。2016年、完全分業制による第4作絵本『えんとつ町のプペル』を刊行し、累計発行部数45万部を超えるベストセラーに。2020年12月公開予定の『映画 えんとつ町のプペル』では脚本・制作総指揮を務める。クラウドファンディングでの合計調達額は3億8000万円を突破。現在、有料会員制コミュニティー(オンラインサロン)『西野亮廣エンタメ研究所』を主宰。会員数は7万人を突破し、国内最大となっている。芸能活動の枠を越え、さまざまなビジネス、表現活動を展開中。

◼︎オンラインサロン「西野亮廣エンタメ研究所」
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西野が考えるエンタメの未来や、現在とりかかっているプロジェクトを先んじて知れたり、場合によってはクリエイターとして強引に参加させられたりする国内最大の会員制のコミュニケーションサロン。コワーキングスペース「ZIP」の利用やサロンメンバーだけでの特典も多数。

画像一覧
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  • 映画『えんとつ町のプペル』(12月25日[金]公開予定)誕生の背景とそこに込めた想いを語る連載第4回
  • 【画像を見る】映画『えんとつ町のプペル』より。絵本にはなかったシーン、キャラクターが数多く描かれ、西野亮廣がこの作品に込めた思いが明らかになる
  • 2016年秋に発売された、絵本『えんとつ町のプペル』。分業制による制作体制や全文無料公開など、前代未聞のアプローチが話題を集めた
  • 絵本『えんとつ町のプペル』より。煙に覆われた「えんとつ町」でただ一人星の存在を信じ、ゴミ人間・プペルと仲良くするルビッチは、時に周囲の人間から迫害を受けてしまう

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    西野亮廣

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