神木隆之介とは何者か?
もう「神木きゅん」と呼んではいけないかもしれない。
神木隆之介は、そのあまりの愛くるしさから、ネット上などを中心(以前、共演した西島秀俊も舞台挨拶で「神木きゅん」と呼んでいたので、ネット上だけではない模様)に「神木きゅん」と呼ばれ愛されている。
「天才子役」として幼いころからテレビ・映画に出演し、かわいらしさを振りまいてきた。国民の息子と言っても過言ではない彼だが、もう25歳。すっかり凛々しい大人になった。
最新作「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる」(NHK総合)では、学校内に派遣された弁護士・スクールロイヤーを演じている。ちょっと前までは、学生が似合っていた彼が、“先生の先生”になったのだ。前作「刑事ゆがみ」('17年フジテレビ系)でも、浅野忠信演じる変人刑事の相棒を好演。子供っぽい青臭さを残しながらも、社会に揉まれていく青年と大人を行き来する役をやると右に出るものはいない。
そもそも神木は2歳のころにCMに出演し芸能界デビューを果たす。実は生まれたばかりのとき、医師から「助かる率が1%」と言われるほどの大病を患った。みんなが「神さまのおかげ」というくらいの奇跡で病気を克服。だから、母親が「生きてる証しというか、思い出にしておきたいという思い」で芸能界入りさせたのだ。6歳のときに「グッドニュース」('99年TBS系)でドラマデビュー。さらに翌年、「葵 徳川三代」(NHK総合ほか)でいきなり、大河ドラマに出演。同じ年、今も伝説的に語り継がれる異色ドラマ「QUIZ」(TBS系)に最重要な役どころで出演し、一躍「天才子役」として脚光を浴び始めた。その後も順調にキャリアを重ね、'04年、11歳のとき、「お父さんのバックドロップ」で映画初主演。翌年、「妖怪大戦争」でも主人公を演じ、日本アカデミー賞・新人俳優賞を受賞した。このときですら、12歳ながら、いやいや「新人」じゃないだろっとツッコミが入ったほどだ。その翌年には「探偵学園Q」(日本テレビ系)でドラマでも主演。話は前後するが'01年にはアニメ映画「千と千尋の神隠し」で声優も経験し、'09年の「サマーウォーズ」でアニメ映画の主演も務めた。特に目立ったキャリアだけ挙げてもこの濃密さ。しかも子役時代だけでこれである。
だが、「天才子役」が生き残るのが難しいのは歴史が証明している。多くの「天才子役」と呼ばれた子役たちがその成長の過程でつまずいてきたのを僕たちは見てきた。また、子役からキャリアアップした人のほとんどは、一度表舞台から消えるなどして、イメージチェンジに成功した人たち。子役は純真無垢さが求められる。けど、大人になってもそのイメージではやっていけないから、子役時代のイメージからいかに脱却するかが重要なのはある意味当然だ。
しかし、神木隆之介が希有な存在なのは、幼いことから途切れることなくテレビ・映画の第一線で出続け、そのままイメージも大きく変えることのないまま、成長していったことだ。象徴的なのは大河ドラマ。「義経」('05年)で源義経の幼少期・牛若を演じた彼は、'12年の「平清盛」で、同じ義経を演じたのだ。まさにテレビ・映画の申し子。神の子だ。出生時、彼の命を助けた「神さま」は、ドラマ・映画の神だったのかもしれない。
神木といえば思い出されるのは、少年時代のいかりや長介との交流だ。ドラマ出演をきっかけに知り合った2人は、神木が8歳のころ、一緒にアフリカ・ケニアを旅するなど、おじいちゃんと孫のような関係となった。このころ、尊敬し憧れの俳優として必ずいかりやを挙げていたとおり、華々しい芸能界で幼いころから活躍し、チヤホヤされがちな環境で育った彼がしっかりと足元を見ていられたのは、地に足の着いたいかりやの哲学を吸収したことが大きかっただろう。
また、彼の家族の家訓のひとつが「性格のかわいい人でありなさい」。
さまざまな演出家が「神木くんぐらい人柄が良い俳優さんはいない」と口を揃える性格の良さはバラエティー番組などで垣間見せる真面目さと無邪気さからも伝わってくる。誰よりも経験を積んできた“大人”なのに子供のように無邪気なままでいる奇跡! 誰からも愛されるのがうなずける。
神の子とは、神に愛された子だったのだ。だからやっぱり許して欲しい。ずっと「神木きゅん」と呼んでしまうのを。
(文・てれびのスキマ)
◆てれびのスキマ=本名:戸部田誠(とべた・まこと) 1978年生まれ。テレビっ子。ライター。著書に『1989年のテレビっ子』『タモリ学』『笑福亭鶴瓶論』など多数。雑誌「週刊文春」「週刊SPA!」、WEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載も多数。2017年より「月刊ザテレビジョン」にて、人気・話題の芸能人について考察する新連載「芸能百花」がスタート
◆てれびのスキマ◆1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌「週刊文春」「週刊SPA!」「TV Bros.」やWEBメディア「日刊サイゾー」「cakes」などでテレビに関する連載多数。著書に『1989年のテレビっ子』『タモリ学』『笑福亭鶴瓶論』『コントに捧げた内村光良の怒り』など。新著に『全部やれ。 日本テレビ えげつない勝ち方』