ザテレビジョンがおくるドラマアカデミー賞は、国内の地上波連続ドラマを読者、審査員、TV記者の投票によって部門別にNo.1を決定する特集です。

最優秀作品賞から、主演・助演男女優賞、ドラマソング賞までさまざまな観点からドラマを表彰します。

第108回ザテレビジョンドラマアカデミー賞最優秀作品賞 受賞インタビュー

(C)TBS

ドラゴン桜

阿部さんだからこそ、桜木の言葉がより深く届いた(飯田和孝P)

まずは受賞のお気持ちからお聞かせください。

飯田和孝P「選んでいただけたことを率直にうれしく思います。もちろんパート1というものがあったからこそ、2が作れたので、1に関わった全ての方々にも感謝したいです」
黎景怡P「加えて、コロナ禍でのドラマ作りには以前とは異なる難しさがありましたが、スタッフ、キャスト一丸となって猛進できたことも大きかったと思いますので、たくさんの方々に感謝しています」


今回はメインの演出が“日曜劇場”でおなじみのベテラン・福澤克雄さんで、脚本のメインはコミカルな作品を得意とするオークラさんと、新鋭の李正美さんでした。この組み合わせの狙いは?

飯田P「脚本はオークラさんと李正美さんを中心に、小山正太さん、山本奈奈さんがチームとなり、意見を出し合って作ったので、皆さんの意見が含まれています。福澤は2004年の『3年B組金八先生』第7シリーズ以来の学園ドラマで、学校の状況も異なりますし、『ドラゴン桜』自体もこれまで彼が作ってきた作品と多少のギャップがあります。ですので、それぞれ得意ジャンルの違う人間が集まったこの組み合わせは良い方に作用したのではないかなと思います」


今回の「ドラゴン桜」はコロナの影響で、制作発表から放送まで1年を要しました。その間、お二人はどのような気持ちでいらしたのでしょうか?

飯田P「2020年3月の東大合格発表日に情報解禁をしたのですが、コロナの影響で延期になったので、当時は戸惑いがありました。また、2021年度からセンター試験に代わり、大学入学共通テストが実施される前に放送する予定でしたので、延期することで企画意図の一つから外れてしまう。ですから、そこをどう落とし込んでいくかを考えなければなりませんでしたし、コロナ禍で大変な状況になっている方がたくさんいる中でこのドラマがどのようなメッセージをお届けすることができるか。そんな偉そうなことではないですが、延期に伴い、どんなことをお伝えできるかを考えていました」

黎P「また、延期したことで逆に実現できたこともあったので、運命と言いますか、流れの中で結実できた部分もあったのではないかなと思います」

飯田P「延期によってし東大専科のキャストも追加募集をかけ、より多くの俳優さんと会うことが出来ました。一期一会といいますか、2021年だったからこそのキャスト、スタッフが集まって制作することができました」


では、脚本の見直しは相当大変だったのでは?

飯田P「台本は一から作り直しました。鬱屈とする時代になったからこそ、視聴者が純粋に面白いと思える要素を入れること、より興味を持てるストーリーにすることを意識しました」


今回の「ドラゴン桜」では桜木が生徒だけでなく、親世代にも強いメッセージを送ることが印象的でした。それは日曜劇場という枠を意識してのことでしょうか? もしくはコロナ禍でより浮き彫りになった社会問題を意識したのでしょうか?

飯田P「日曜劇場には家族みんなで見られて、月曜日からまた頑張ろうと思える作品というコンセプトがあるので、より家族や親子、仲間との信頼関係などをより強く意識した形になりました。ですので、コロナ禍の影響というわけではありません。ただ、コロナ禍によって配信動画サービスが充実し、海外ドラマを一気見する方が増えました。次が気になって一気見したくなる作品が乱立していて、しかも簡単に見ることができる。しかし、連続ドラマはどうしても間が1週間空いてしまいます。ですから、米山(佐野勇斗)や坂本(林遣都)、岸本弁護士(早霧せいな)の動きでいろいろな伏線を貼り、裏を作り、来週また見たくなる動機を作ることを強く意識しました」


なるほど。では、黎さんが込めた思いは?

黎P「日曜劇場ということで、今回は東大に行くために頑張る過程だけではなく、東大に行った人のその後の人生も描きました。例えば、東大卒業後に父親との確執に苦しめられている理事長(江口のりこ)など、それぞれの人生を幅広く描くことができたのではないかと思っています。そうすることで、『一つ一つの選択が自分自身を作り上げる』ということを、全編を通して伝えられたのではないかと思っています」

飯田P「今、黎さんが言ったことにつながるのですが、パート1は“東大に行け! 東大に行くことはプラチナチケットだ”というところまで描かれていましたが、パート2では“なぜ東大に行くのか”という部分も描きました。第1話で東大に行くことを否定するところから始まり、なぜ東大に行くのかというドラマなりの答えにたどり着くことができたのではないかと思います」


受験に加えて、スリリングな学園売却問題も大きく描かれ、その反響も大きかったのではないかと思います。

飯田P「“面白かった”という声は純粋にうれしいですし、“いろんな意味でいい裏切り方をしている”という感想は一番うれしかったです。SNSで買収問題の裏切り者が誰かという予想もされていて、教頭(及川光博)が怪しいという声は上がっていましたが、坂本と米山が実は味方だったことを予想できた人はあまりいなかったようで、そこは作りがいがありましたね(笑)。また、坂本と米山というキャラクターを登場させることで、先ほど黎さんが言った東大卒業後の姿を描くこともできましたし、桜木先生が水野先生によく『教え子を信じろ』と言っていた、人を信じる部分のエピソードを描くこともできました。加えて、視聴者の方から反響もいただけましたので、本当に良かったです」


この作品を引っ張る1トップであった桜木を16年ぶりに演じた阿部寛さんの魅力は、どうお感じになりましたか?

黎P「阿部さんとは初めてお仕事をさせていただいたのですが、いらっしゃるだけで襟を正したくなる緊張感がある方で、言葉にすごく説得力がありました。前作より16年の時を経て、キャリアを積んだからこそのより深みのある桜木先生を見ることができたのではないかと思います。人生も含めて大先輩ですので、私自身、いろいろなことを学ぶことができましたし、そこは視聴者の方も感じられたのでないかと思います。福澤監督がよく『生徒に向けた言葉は、視聴者に向けての言葉でもある』と言っていたのですが、その言葉は阿部さんだからこそより深く届いたのではないかと思っています」

飯P「パート1の時、僕はちょうど入社した年でしたが、黎さんは?」

黎P「中学生でした(笑)」

飯田P「(笑)。僕も阿部さんと初めてお仕事させていただいたのですが、ぐいぐい引っ張っていくというよりは受け皿になってくれるような懐の広さを感じました。みんなが阿部さんを信頼していて、阿部さんも生徒や長澤さんを信頼している。そういうチームが出来上がっていくのを見ていて、素敵だなと思いました。阿部さんはご自分の演技に対して厳しく、相手がどう受け取るかということを常に考えていらっしゃいました。生徒がどう受け取るかは、つまりは視聴者がどう受け取るかにつながるわけで、一つ一つをとても緻密に練られているなと感じました」


一方、長澤さんは同じ役とはいえ、当時は高校生役でした。そこから東大を卒業し、弁護士になっています。環境の異なる同じ人物を演じるのも難しいと思いますが、長澤さんはどのようにお話しされていましたか?

黎P「同じ役だから『当時はこうだった』と思い出すよりも、大人になった水野直美として桜木先生と向き合い、生徒たちには愛情を持って接していたと思います」

飯田P「生徒と弁護士の間の16年をあえて埋めようとはしていなかったと思います。今回の台本から受けるものと、桜木先生とのやりとりを大切にされていて、とにかく桜木先生を信頼している。ご本人も『自分は生徒たちを少しでも引っ張っていくことを意識しますが、あくまで桜木先生の教え子。弁護士として生徒の前に立っていますが、桜木先生の言葉は一生徒として受け取っているという感覚でいる』とおっしゃっていました」


この二人と対峙する生徒たちも好評でしたね。

飯田P「エピソードを経るごとに、一人一人が視聴者をひきつけていった結果だと思います。それぞれが、自分の役を深く掘り下げて、良い緊張感を持ちながら、お互い刺激しあえる東大専科になれたことが、成長に繋がったんだと思います。オーディションから半年以上、日々成長する姿は本当に頼もしかったです」

黎P「今はSNSで評価が即時に届くので、そこに左右されずに気持ちをコントロールするのは大変ですよね。そんな中で、話ごとにスポットが当たるキャラクターが違ったので、いい意味で互いに刺激し合えたのではないかなと思います」

飯田P「福澤監督はストレートに要求しますが、それに対して折れない心が全員にありましたし、現場に来るまでの準備がしっかりとできていました。とはいえ、悩んでいましたけどね。キャラクターとしての立ち方と、演出の要求、そしてドラマ全体の見え方。そこにギャップを感じることもあったのではないかと思いますが、準備をしっかりしていたことでそのギャップに食らいつくことができたのだと思います」


メインの生徒7人の素晴らしいと感じたところを教えていただけますか?

黎P「瀬戸輝役の髙橋海人さんは、最初は柔らかい雰囲気の方だなと思ったのですが、実はすごく野心的といいますか、向上心の高い方で、悩みながらもしっかり目標に向かっていくしんしな姿が魅力的だなと思いました。髙橋さんはお芝居だけではなく、一つ一つの仕事に真剣に向き合っている方なんだろうなと思います」

飯田P「早瀬菜緒役の南沙良さんは、みんな、それぞれに悩んでいましたが、一番悩んでいたと思います。南さんは線が細くて、弱い印象がありますが、実は芯がとても太く、最終的には菜緒という役を自分のものにしていて、表情の豊かさなどはとても魅力的だなと思いました」

では、岩崎楓役の平手友梨奈さんはいかがですか?

飯田P「平手さんは突き詰め型です。自分自身に対して、妥協を一切しない。でも、それは平手さん曰く、楓がそういう人だからと。それがとても印象的でした。最終話での表情にすっきりと抜けた明るさがあるように見えたので、彼女自身のやり切った感が出たのかなと思っていたら、『親との確執が取り除かれて、岩崎の肩の荷が降りていたからです』と言われて、僕が思っていた以上に役を生きていたのだなと感心しました」

黎P「天野晃一郎役の加藤清史郎くんはキャリアが長いこともあってか、現場ではムードメーカーとして、みんなを引っ張りながら、自分自身のキャラクターと向き合っていました。演じる天野はとても普通のキャラクターで、だからこそ演じづらい。悩みながら作り上げ、結果的には愛されるキャラクターになりましたが、あそこまでになったのは本人の努力とご自身の明るさがあったからだと思います」


当初は憎まれ役だった藤井遼を演じた鈴鹿央士さんはいかがですか?

飯田P「自分が納得できているものに対しての表現力がとても高い方でした。藤井は第3話から表に出てくるキャラクターでしたが、兄たちとの関係など、藤井のバッグボーンをしっかりとつかんでいたので、“彼の演技は間違いない”という安心感がありました。その後も成長していく藤井という役の機微を捉えていて、上手いなと思いました」


上手いといえば、小杉麻里を演じた志田彩良さんもそう思いました。

黎P「志田さんは、麻里は家でDVを受けている役なので減量をしてみようなど、こちらから言わなくても自発的にいろいろ考えてしっかり準備してくる方でした。ですから、専科の中でも安定した存在感を見せ、安心できるキャラクターになっていたのではないかと思います。そして、とても負けず嫌いなところも魅力だと思います」


では、原健太役のために10kg以上増量して挑んだ細田佳央太さんは?

飯田P「細田くんは真面目! いろいろ考えて考え抜いて、一つ一つキャラクターの中に組み入れていく感じの俳優さんで、真面目すぎるぐらい真面目! 微妙な仕草、眼球の動き、表情の強ばりまで気を使って演技しているのがすごいです」

黎P「健太は徐々に藤井と仲良くなっていきますが、それは裏でのことで表からは見えないので、どう表現するのかを二人で相談しているのを見かけました。周囲の人たちから学ぶ姿勢が魅力的だったなと思います」


そして、パート1の卒業生を演じた紗栄子さん、中尾明慶さん、小池徹平さん、山下智久さん(声のみ)、新垣結衣さんの登場も話題になりました。これは最初から決まっていたのですか?

飯田P「出てほしいな、そうなったらいいなという想いはありました。ただ今回はパート2の生徒たちの物語ですし、まずは今回の東大専科のみんなが視聴者を釘付けにさせなければと思っていました。もし卒業生の皆さんにお願いするならば、ただのカメオ出演ではなく、卒業生たちが桜木先生に感謝していることを示す形でなければとずっと模索していて、それが最終話で結実させることができました。そこを視聴者の方に喜んでいただけたのであれば良かったなと思います」


それから、“日曜劇場”の小ネタも気になりました。例えば、封筒に書かれていた銀行名が「半沢直樹」の白水銀行だったり、卒業生の奥野一郎(中尾明慶)が「ノーサイド・ゲーム」のトキワ自動車に就職していたり、「TOKYO MER―」のERカーが登場したり、そういったお遊びは、どのように生まれたのですか?

黎P「日曜劇場を楽しんでくださっている固定のファン層の皆様に少しでも楽しんでいただけたらと思って、です(笑)」

飯田P「看板など美術さんがいろいろ作ってくださったので、ほかにも結構ありますよ!」


そうなんですね! もう一度、見て探したいですが、作品の未来も気になります。続編についてはどうお考えですか?

飯田P「『ドラゴン桜』はやはり『東大に行くための勉強法』が企画の根幹ですので、その軸を示せるのであれば、またチャレンジしてみたいという思いはあります。もちろん三田紀房さんの原作あってのものですので、そういったタイミングが合えば…ですが。でも桜木先生、水野先生にまた会える日が来るならば、とてもうれしいです」

(取材・文=小松香里)
ドラゴン桜 シーズン2

ドラゴン桜 シーズン2

原作は、2018年から連載中の三田紀房の同名漫画。阿部寛主演で2005年に放送されたドラマ「ドラゴン桜」の続編。前作から15年後の龍山高校を舞台に、弁護士・桜木建二(阿部)が去った後、下降の一途をたどっていた同校の窮地を、再び桜木が救う姿を描く。同作は、受験制度改革に合わせて続編制作が決定したという。

第108回ザテレビジョンドラマアカデミー賞受賞インタビュー一覧

【PR】お知らせ