――第44話で信繁が出城を築き、「名は、決まっておろう、『真田丸』よ」と言ってから放送の最後にオープニングタイトルが流れる趣向も話題になりました。あれは三谷さんのアイデアだったのでしょうか?
実はそうなんです。台本を書き上げたときには考えていなかったけれど、何かの拍子に「そうなったら絶対かっこいいな」と思って、プロデューサーに電話し、「この回はオープニングを最後に持っていきませんか」という話をしました。「ノリでやっちゃいましょう」みたいな感じで、あっという間にその案が通りまして、やっぱりそういうチームは強いなと思いましたね。他にも、僕が「こんなことはできないか」というアイデアを出して、それが突拍子もないことでも、プロデューサーと演出家が実現する方向に向かってくれた。行動力と発想力と実現力がそろったチームだったと思います。
――今回、信繁役の堺雅人さんも主演男優賞を受賞されました。きり(長澤まさみ)とキスをしたり、最後の瞬間に微笑んだりと、堺さんのアイデアも活かされたようですが。
素晴らしかったです。堺さんは、最初のころ「台本どおり、きちんと演じる」というのをポリシーとされていたみたいで、台本に書かれていないことは一切しなかったんです。あるときは僕が“てにをは”を間違えたのもそのまま言っていらして、むしろこっちが恥ずかしいぐらいで(笑)。まだ序盤のころ、機会があったのでメールして、「台本にがんじがらめにならないで、もっと自由な発想でやっていただいていいんですよ」とお伝えしました。それでお返事いただいたら、「少し吹っ切れました」みたいなことが書いてありましたね。最後の瞬間に信繁が微笑むというのは、僕は台本には書いてないんじゃないかな。堺さんとディレクターが現場で決められたのではないかと思います。
――「あさイチ」に出演された際、信繁ときりがキスをしながらしゃべっていたのは長澤まさみさんのアイデアとおっしゃっていましたね。
そうです。それも黙っていれば全部、僕の手柄になったんですが…(笑)。もちろん、僕もあのシーンを書いたとき、キスするのは当然ありだなとは思ったけれど、いちいちト書きで書くのも照れくさいじゃないですか。しかし、まさかキスしながらしゃべるとは思いませんでした。あれは長澤さんが昔から温めていた演技プランで、いつかやってみたかったそうなんです。打診があったとき、「それは良いアイデアですね」と言いましたし、本編を見ても面白かったんですが、できればもっと早く言ってほしかった! きりの「あのころが私、一番きれいだったんですから」というのは僕が書いたセリフですが、キスしながらしゃべるのなら、もっと違うことを言わせたかったという悔しさは、ちょっとあります(笑)。
――三谷さんは役者に“当て書き”をするので有名ですが、近藤正臣さん演じる徳川の家臣・本多正信が気に入って、出番を増やしたというのは本当ですか?
僕にとっての大河の原点といえば、「国盗り物語」で近藤さんが演じた明智光秀ですから、今回、出ていただけるだけでもうれしいのに、近藤さんの演技を見ていると、正信という人物をもっとふくらませたいと思いましたし、近藤さんが台本を読んだとき「早く芝居したい」と思ってくださるようなセリフを書きたいと思っていました。
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