「原作とはまた違った、新たな見つめ方で捉えることができる」
渡辺:僕も尾崎さんと同じですね。このドラマで言うと、原作に心震わされた高羽さんという作家が、セリフを改めて紡いでいくことが肝になっているなと。雨瀬さんの作品を高羽さんという違う方のフィルターを通すことで、やはり多少なりとも解釈の齟齬が生まれるんですよ。ただ、それも原作へのリスペクトがある上でなので、原作の魂みないなものは決して壊さない。
演出面では、“高柳像”みたいなものを山田さんと何度も話し合ったり、セリフ一つにしても微妙なニュアンスの差で高柳先生の印象が変わってきてしまうので、いろいろなバージョンを実際に試したりしました。原作ファンにも原作を読まれていない方にも、ちゃんと伝えたいものが届いてほしかったので、大きなことからほんの些細なことまで一つひとつ丁寧に考えて練り上げていきました。
――では、お二人は人気漫画を実写化する意義はどのようなところにあると感じますか?
尾崎:このドラマにおいての意義を言うと、原作と同じことを描いていても、生身の人間が言葉を発することで、その言葉が新たに立体化されて、より深く心に届いたり響いたりするのではないかと。たとえば、第1話の高柳先生の「合意ですか?」という一言。ドラマならではの鋭さと重さがあるように感じました。すごく普遍的なことを言っていて、私たち自身が日常生活において、さまざまな場面でちゃんと合意してるんだっけ? ということを改めて問い直されるなと。それらの言葉が肉声で発せられることによって、日常へのヒントや考えるきっかけに繋がるのではないかと思うんです。
渡辺:僕は、ドラマを作ることも哲学することに似てるなと感じます。これが本当に正しい見せ方なのかと毎回問うけど、それに対する正解がない。雨瀬さんがこの漫画を描かれる上で哲学したことを、高羽さんが脚本を書くときにまた問い直して、それをさらに現場で役者さんや僕たち制作陣が考えて作り出していく。雨瀬さんが始めた問いに対して、さまざまな人たちがそれぞれの解釈をして練り直し、結果テレビドラマという形で発信していくというのは、見ている方たちが物語を原作とはまた違った、新たな見つめ方で捉えることができるようになるのではないかなと。だから、実写化する価値は充分にあったと、僕は思います。
◆取材・文=戸塚安友奈
毎週土曜夜11:30-0:00
NHK総合にて放送