そんな多くの芸人が姉のように慕うやすとも。姉のともこが71年生まれの49歳、妹のやすよが75年生まれの45歳だがその芸歴は長い。そもそも二人は、女流漫才師海原お浜・小浜の小浜を祖母に、海原かける・めぐるのかけるを父に持つ漫才一家のサラブレッドであり、92年に中田ボタンに弟子入りしている。そこから数えると芸歴は29年だが、祖母の事務所社長から「姉妹でやらせたら面白いんちゃうか」と稽古をつけられ始めたのはともこ8歳、やすよ4歳の頃なので、コンビ結成からはすでに40年を数える。
92年当時、すでに吉本の養成所NSCはあり、芸人になる王道はそちらに移りつつあったが、二人はあえて弟子入りの道を選んだ。当時の若手の登竜門・心斎橋2丁目劇場は、ショートコントを行うようなコンビが多く、弟子入りしている女性漫才師の正統派しゃべくり漫才は浮いたと言うが、すぐに頭角を現し漫才の新人賞を総なめ。以来、しゃべくり漫才一筋で今も舞台に立っている。
やすともの強みは女性票で、デビュー6年目にあたる「週刊朝日」98年4月3日号ではすでに「若い女性のお笑いコンビのファンは男性が多いようだが、この二人は圧倒的に女性に人気がある」と評されている。2003年には「”おんな”と言う職業」と題して女性ゲストを招くイベントを開いたりと常に女性の視点をネタに取り入れている。
加えて、二人とも結婚・出産・闘病などのライフイベントやファッションなどについてもよく雑誌等で語っており、その辺りも多くの女性の共感を得ている由縁である。ちなみにともこの夫は元男闘呼組の前田耕陽であり、やすよの夫は元オリックスの投手宮本大輔だ。
女性の共感が得られる二人の特性は現在の冠番組でも生かされている。「やすとものどこいこ!?」では二人がゲストとともに買い物をするのだが、商品紹介の依頼は受け付けておらず二人が視聴者目線、主婦目線で商品を選んでおり、放送後に紹介された商品が売り切れとなることも多いと言う。
子役が成長を見守られるように、芸能一家に育ったやすともも常に成長を見守られてきた。その一方、芸人として養成所の道を選ばず、かつ女性の少ない漫才師の世界で、彼女たちは酸いも甘いも経験してきた。だからこそ、芸人は絶大なる信頼感を持ってやすともの番組に出演し、本音を語り、関西の女性たちはやすともの意見に共感する。
そして、二人は女性漫才師であることを誇りに思い、そうであるがゆえにあえて関西にとどまり、東京に進出しない。
東京の芸人に喩えようとしていた私が間違いだった。
やすともはやすとも、他の何者でもない。