鈴木拡樹＆荒牧慶彦「バクマン。」THE STAGE開幕、ページをめくるワクワクが詰まったノンストップ演劇
想像力がフルにかき立てられる2時間弱
ステージ上のセットは白一色。直線で構成されたそれらは白紙の原稿用紙、あるいは描き込まれる前の漫画のコマのようだ。そこに黒い傘をさした人々が現れ、交錯していく。ステージの上には雨が降り、かすかに流れるお経から、ここが葬式の場であることが分かる。鎮痛な面持ちで飛び出してきたのは、本作の主人公の1人であるサイコー(鈴木)。彼の叔父であり、漫画家の川口たろう(片桐仁)が亡くなったのだ。
冒頭ではまず、サイコーが叔父の意思を継ぐように漫画家を志し、もう1人の主人公であるシュージン(荒牧)とタッグを組むまでのエピソードが紡がれる。サイコーは作画、シュージンは原作を担当し、2人は“ジャンプ”での連載を目指して奮闘。仲間でありライバルでもある漫画家たちや、優しくも厳しい編集者たちとかかわりながら、夢に向かって突き進んでいく。
熱い青春ストーリーや個性的なキャラクターはもちろん魅力的だが、特筆すべきは実に多彩な演出の数々。セットやモニター、雨に写真や映像が投影（！）されたり、川口の代表作である「超ヒーロー伝説」の着ぐるみが登場したり、ダンスで心情を表したり…と、息つく間もないほどのテンポで、演劇的な仕掛けがこれでもかと詰め込まれる。それはまさに「ペンがあれば何でも描ける」漫画と同じ。ステージの上という限られた空間が、時には教室、時にはジャンプ編集部、時には漫画の世界の中…と役割を変えるたびに、まるで漫画のページをめくるようなワクワクを感じることができる。
また、“水”の演出も本作の驚くべき特徴の一つ。漫画制作の高揚感、あるいは登場人物の人知れず抱える苦悩が、踊る水しぶきや降りしきる雨によって表現されている。その演出を、荒牧も開幕コメントで「“今ここに生きているもの”を表す表現としてこの上ない方法」と絶賛。まさにこの作品でしか味わえない演出だ。
鈴木が「さまざまな仕掛けで役やストーリーの変化を表現しています」と語る通り、演劇だからこそ効果を生む演出が、最初から最後までぎっしりと詰め込まれている本作。舞台の上には常に何らかのアイデアがあり、“休憩”のようなシーンは一つもない。「バクマン。」の世界を表現する仕掛けは枚挙にいとまがなく、見る側の想像力がフルにかき立てられる2時間弱に仕上がっている。
「バクマン。」THE STAGEは10月8日(金)～17日(日)に東京・天王洲 銀河劇場、10月21日(木)～24日(日)に東京・TOKYO DOME CITY HALL、10月28日(木)～31日(日)に大阪・メルパルクホール大阪で上演予定。2022年3月29日にBlu-ray&DVDが発売されるほか、一部の公演は“シアターコンプレックス”にて生配信も行われる。
【公演期間・劇場】
・東京公演(天王洲 銀河劇場)：2021年10月8日(金)～17日(日)
・東京公演(TOKYO DOME CITY HALL)：2021年10月21日(木)～24日(日)
・大阪公演(メルパルクホール大阪)：2021年10月28日(木)～31日(日)
【原作】大場つぐみ、小畑健「バクマン。」(集英社 ジャンプ コミックス刊)
【演出・脚本】ウォーリー木下
【音楽】和田俊輔
【キャスト】鈴木拡樹(真城最高役)、荒牧慶彦(高木秋人役)／橋本祥平(新妻エイジ役)、オレノグラフィティ(福田真太役)、福澤侑(平丸一也役)、村上大樹(中井巧朗役)、唐橋充(佐々木尚役)、長谷川朝晴(服部 哲役)／片桐仁(川口たろう役)
(C)大場つぐみ・小畑健/集英社・「バクマン。」THE STAGE 製作委員会
