生活の中の「何かおかしい」を見過ごすと、とんでもないことになる
本作は交通事故をテーマとした2話や、メディアの炎上をテーマとした6話など、現実の事件を想起させるエピソードが印象的だ。ここには太田Pが作品にこめたメッセージがある。
「それもタイトルに帰結する部分で。2話でモチーフにしている事件は皆さん想像がつくと思いますし、6話のようなことも日常でいっぱい起こっている。僕ら自身、生活の中で『何かおかしい』と思いながらも、自分に直接関係ないから見過ごしている。それを放置しておくと、とんでもないことになりますよ、というのを描きたかった」
劇中ではSNSの書き込みが物語を動かす場面も多く、視聴者の存在感が非常に大きい。これはテレビというマスメディアが昨今向き合っている現実にも通ずる点があるだろう。このような時代にコンテンツを作る上で注意している点を太田Pに尋ねると「リスクをケアしながら作品を作ること」との答えが返ってきた。
「たとえば具体的な例で言うと、今準備している別のドラマではトランスジェンダーの方が出てくるんですが、これは実際にトランスジェンダーの俳優に演じてもらいますし、その周りのトランスジェンダーの方の意見も含めて、台本の監修にも入ってもらっています。アカデミー賞受賞作の『コーダ あいのうた』でも、聾者の俳優が聾者を演じていましたが、もし健常者が演じていたら意味が変わってくる。10年前だったらまた違ったと思いますが、今はSNSが発達して拡散力が強まり、炎上リスクも高まった。誤った表現をすることがないよう、マイノリティ属性を持った方の描き方には特に気をつけています」
テレビのそもそもの『型』を疑っていきたい
太田Pは「ダメな男じゃダメですか?」「おしゃ家ソムリエおしゃ子!」などのドラマも手掛けているが、元々「YOUは何しに日本へ?」などを担当してきたバラエティ畑の出身。当日行き当たりばったりで、空港で出会った外国人観光客にいきなり密着取材する「YOUは何しに日本へ?」のコンセプトは、太田Pに大きな影響を与えたという。
「あの番組は今までのテレビの常識を変えた部分があります。密着取材したのに取材先がNGでまるまる使えなくなったり、ずっと動画にスタッフの脚が見切れてるのをそのまま使ったり…『YOUは何しに~』をやったことで、バラエティの常識なんてものはないんだ、ということを学びました。そして今回『何かおかしい』も一般的なドラマのセオリーとはかけ離れた作り方をしてみて、ドラマの常識もないということがわかった。今後も、テレビのそもそもの『型』を疑っていきたいです」
本作は、YouTubeとテレビのひとつの理想的なシナジーを実現したといえるだろう。今後も『型』にとらわれない挑戦が新たな話題を生むのを楽しみにしていきたい。