郭智博、自身の“どうしようもない”部分は「客観的に見た時にしゃべり方や言葉の選び方が子どもだなと思う」
このまま消えてしまうのかなという不安も
――2019年の東京国際映画祭で上映された時から一般公開を望むファンが多かったですが、あれから2年半たってようやくその日を迎えることができましたね。
決して大きな作品ではないですが、出演してくださったキャストの皆さん、そして制作に携わってくださったスタッフの方たちのためにも一般公開してほしいという気持ちがありました。コロナ禍ということもあって、エンタメ業界も公開や公演などが延期になるケースも多かったですから、このまま消えてしまうのかなという不安もあったんです。今は公開が決まってホッとしています。
――以前のインタビューで「30代のうちに東京国際映画祭に出たい」と仰っていましたが、その夢もかないましたね。舞台いあいさつではどんな景色が見えていましたか?
俳優って特に免許があるわけではないですし、自分で「俳優です。役者です」って言ってしまえば俳優なんです。でも、映画祭とかに出たこともないのに「俳優」と呼ばれることがどこかくすぐったかったり、申し訳ないなという思いもあったりして。そういう意味で結果というわけではないですけど、30代のうちに何とか映画祭に出品されるような作品に出られる役者になりたい、しっかりと形を残せたらいいなと思っていたんです。
この作品でレッドカーペットを歩かせていただきましたけど、すごく華やかな世界だなと感じました。映画祭に来てくださる方は映画が好きな人が多いのでそういう人たちの前でしゃべったり、挨拶することができてうれしかったです。
――作品の中に出てくるエピソードはほとんどが実話だということですが、最初に脚本を読んだ時にどう思いましたか?
監督の倉本さんとは2回舞台でご一緒したんですけど、倉本さんらしい話を書くなって思いました。僕自身、シリアスで重い感じの映画が好きなんです。しんどそうだなと思いつつ、そういう作品に参加できることがうれしかったです。
――今回はロケハンから参加されたそうですね?
普通だったら撮影当日に現場に入ってリハーサルをやったらすぐ本番という形なんですけど、今回は題材的にもリアルな部分を描いているので、それはちょっと違うかなと。僕が演じる「彼」がずっと住んでいる家ですから、自分の芝居のプランを考える上でもプラスになるかなと思って、ちょっと無理を言って車に押し込んでもらってロケハンに同行させてもらいました。
ロケ地は神奈川の相模原市。実は、僕が4歳から12歳ぐらいまで住んでいた所だったんです。なじみのある町だったので撮影が始まってもずっと自然なままでいられました。
――映画祭の時に「あまり役作りということを意識しなかった」と仰っていましたが「彼」というキャラクターにはどんなアプローチを?
史実の人物を演じるのであればアプローチの仕方が分かるんですけど、今回の場合はどうしても自分の中にいる「彼」に似たところを探すという作業になってしまいました。僕も立派な人間ではないし、大人になってから親にお金を借りたこともありますし(笑)。もちろん、子どもを虐待したことはないですけど「彼」のだらしない部分を分かる自分がいたりもして。そういう意味では「彼」にすり寄っていくしかないのかなと思いました。
――「彼」を演じる時に心掛けたことはありますか?
自分の中のだらしない部分を増幅させて演じるしかないなと。僕には子どもがいないので親子の関係は想像でしかできない。倉本さんにうまく誘導していただきました。
「彼」と娘のひいろ(古田結凪)のシーンでいうと、屋上に連れて行って冷たくするところは表情や歩き方になるべく人間味が出ないよう無機質に演じることを心掛けました。
ひいろ役の結凪ちゃんは、あの年齢で全く役を引きずらないんです。休憩中はずっと一緒に遊んでいました。でも、本番が始まると父親とは仲良くない空気感を出してくれて。すごいなと思いました。
僕にはまねできないことですね
――モヤモヤした思いを抱える「彼」が感情を爆発させるシーンは印象的ですね。
多かれ少なかれみんな何かしら不満を抱いていると思うんです。「彼」みたいにあそこまで思いっきり感情を爆発させることができたらいいんでしょうけど、それはなかなか難しい。あの行動はどこか娘への懺悔みたいなものもあるんでしょうけど、僕にはまねできないことですね。
――夜のシーンでしたけど「彼」は道路で大胆な行動をされていました。
監督からは人通りが少ないですからって言われていたんですけど、夜の9時、10時は帰宅する人が多くて。しかも、あんなふうに感情を出すシーンはリハーサルして本番1回が普通なのに何回も撮ったんです。倉本さんから「郭さん、良かったですよ」って言われたのに「じゃあ、もう1回行きましょう」ってなるから、段々イライラしてきて。そういう倉本さんへの不満も出ていたかもしれません(笑)。
――もしかしたら監督の狙いだったのかもしれませんね。
そうかもしれないですね。あのシーンはかなり気持ちが入っていたと思います。
KADOKAWA / 角川書店
東宝