「学校はいやでも週5で好きな人に会える場所」
紬が高校時代を思い出したときのセリフで「今思うと学校っていうのはすごい場所だった。いやでも週5で行く場所で、いやでも週5で好きな人に会える場所だった」というのがあった。これは、第1話の中で一番の名ゼリフだったのではないかと、勝手ながら耳に入った瞬間ハッとさせられた。
校内に恋愛相手がいる、またはいた人にとって、学校というのはとんでもなく恵まれた環境であったのだ。しかし、相手と顔を合わすのが気まずい日もあるだろうし、100%幸せだと噛みしめて学生生活を送った子は少ないだろう。これこそ失って初めて気付く幸せ、というやつである。
例えば「週5で好きな人に会えるなんて、最高に楽しくスキップで通ってしまうような場所だった!」などといった喜び全開の言葉選びではないところも良かった。「いやでも行く場所」「いやでも好きな人に会える場所」という学生ならではの気ダルそうな言い回しや、“学校って別に最高なところでもないけど、今思えばすごい場所だな”という実感は、卒業して8年経った紬のリアルな気持ちが込められた秀逸なセリフであった。
知らない世界を「知る」きっかけに
紬が想の第一印象を「好きな声で好きな言葉を紡ぐ人だった」と語ったり、現恋人の湊斗(鈴鹿央士)の性格を「主成分:優しさ」と表したりするのは、紬の感性と表現力が優れていることを示している。
健常者と障がい者、または大多数と少数と言ってもいいが、いわゆる普通の女子の世界に住む紬が、耳が聴こえなくなった想のことをどう捉えていくのかが楽しみな作品だ。何かを失う前に気付くことができれば、人はもっと他人に優しくなれるはずだし、自分とは違う考えや境遇に理解を深めることができるはず。ドラマの役目というのは「知らない世界を知る」という側面もあるだろう。多くの人が何かを感じ取っていけそうな作品だ。
◆文=ザテレビジョンドラマ部