得体の知れないものを見て、未知の感情に支配される豊かさ
ーーA24が北米配給権を獲得して話題になった「LAMB/ラム」ですが、セリフや音楽が控えめで、改めて総合芸術としての映画のおもしろさを感じました。SYOさんは、ご覧になってどうでしたか?
絵画的な、一枚の絵として成立すればいいというおもしろさや美しさを感じました。監督に取材した時もおっしゃっていたのですが、最近、情報がたくさん盛り込まれた作品って、すごく増えていると思うんですね。音楽や台詞、演出などをとにかく入れていって、お客さんが想像する余白を残さない。それはエンタメとして、もちろん間違いでも悪いことでもありません。ただ、そういうのに疲れてしまった人や、自分自身が想像する楽しみを求める人にとっては「LAMB/ラム」はすごく気持ちがいい作品でした。
僕自身ライターではありますが、映画って言語化できないものを表現するためのものだとも思うので、それを言葉で表してしまうところにもったいなさを感じていて、最近はとくに何も考えずに見てるんです。「LAMB/ラム」はそれを許してくれるような作品だったというか、「こっちにおいでよ」と言ってくれるような作品でした。
ーー「LAMB/ラム」の見どころは。
得体の知れないものを見に行って、自分が感じたことのない感情に支配されるところだと思います。A24のすごさでもありますが、話の筋はすごくシンプル。人里離れた山奥に暮らしてる夫婦が、得体の知れない子どもを授かって育てていく。ただそれだけの話なんですけど、予想を超えた感情が自分の内からせり上がってくる。
「LAMB/ラム」自体は、いろんな考察があるそうなんです。羊の耳についているプレートの番号の意味や、神話的な意味合いなど、いろんな楽しみ方ができるポイントがちりばめられています。でも、そういうことは気になったら調べればよくて、ラストシーンはどういうことだったんだろうとか、夫婦が授かった“アダ”ちゃんはどこから来たんだろうとか、妄想すること自体が楽しいですから。特に何も考えずに作品を見て、うまく言語化できないけどすごいものを見てしまったという感覚を味わってほしいです。そういう感覚って、映画以外ではなかなか難しいと思うので。
今これだけコンテンツが溢れていて、自分が見たいものをピックアップできる環境の中で、自分が想像もしないところに飛び込まされることってほとんどないと思うんです。嫌悪感を抱くかもしれない、理解できないかもしれない、でもそれって豊かなことじゃないのかなと。「LAMB/ラム」には「LAMB/ラム」でしか得られないであろう、作品に対する自分の反応や反射があるので、そこが見どころかなと思います。
ーー今後楽しみにしている作品はありますか?
アリ・アスターの次の作品「Disappointment Blvd.(原題)」は、ホアキン・フェニックスが主役なので、それはすごく楽しみにしているものの一つです。ダーレン・アロノフスキー監督の、「The Whale」も前々から見たかったですし、A24史上最もヒットしたといわれている作品「EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE(原題)」が、日本で2023年に公開を控えています。A24の新作は全部楽しみです(笑)。
アイスランドの人里離れた山間部。この地で静かに暮らす羊飼いの夫婦が、ある日、羊の出産に立ち会う。すると羊ではない“何か”が産まれてくる。衝撃も束の間、夫婦は自身の子どものようにその存在を受け入れて“アダ”と名づけ、育てることに決める。
◆映画「LAMB/ラム」本予告
TCエンタテインメント
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