テンション低い“あーん”にドキドキとニヤニヤが止まらない!
結局、満は良いとも悪いとも言わなかったが、二人は一緒に昼食を食べるようになる。満はたいていパン、浩一はめちゃめちゃドデカいお弁当で、最初は本当に黙ったままただただ昼ご飯を食べる彼ら。用具置き場や校庭の片隅で昼食を取り、浩一の大きなお弁当箱にはおかずがぎっしりと詰まっている。卵焼きとウィンナーは定番のおかずで、しかもウィンナーは必ずタコ型。黙々とかわいいタコさんウィンナーを食べる浩一がかわいい。
ある日、プールサイドでいつものように黙って昼ご飯を食べていると、浩一が食べようとしたのがカニ型のウィンナーで、満は思わず「カニ?」と声を出す。浩一は子どもっぽいお弁当のことを、下に妹と弟がいて弟がまだ幼稚園だからと言い訳のように話す。満はそのことには触れずに、タコはなんとなくわかるけどカニは難しそうだと言う。ぶっきらぼうな満なりの優しさが伝わってきて心が温まる。
浩一はカニさんウィンナーを満に見せると、両側に切れ込みかと満は作り方を理解した。浩一はただしウィンナーは赤くないとダメ、カニっぽさが出ないからというと、さらに腕を伸ばして「ん」と満にカニさんウィンナーを差し出す。「え?」と戸惑う満に対して、当然のように「はい」とさらに腕を伸ばす浩一。満は観念したかのように浩一の方に向き直って、目を逸らしながらもカニさんウィンナーを食べる。満が浩一を受け入れたことが見ていてうれしくなってくる。
そして、満はゆっくりともぐもぐして、浩一に「どうだ?」と聞かれると静かにボソッと「普通」と答えた。こんなにテンションの低い“あーん”シーンなのに、こんなにもドキドキしてニヤニヤしてしまうとは! その後、二人はこのできごとを境に二人の距離は少しずつ近づいていき、会話するようになり、下校もともにするように。タコさんウィンナーではなくカニさんウィンナーだったおかげで、キュンキュンすることができた。人生でカニさんウィンナーに感謝する日が来るとは思わなかったが、これからは手を合わせてから食べることになるだろう。
◆文=ザテレビジョンドラマ部