7年ぶりにテレビ番組を見るというライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は、「道との遭遇」(毎週火曜夜11:56-0:44、CBCテレビ)をチョイス。
新しい世界と出会う「道との遭遇」
この世には、有識者から聞かなきゃ一生知らなかったであろう話が溢れている。ちょっと外に出て道を歩けば、まったく訳の分からないものに遭遇し、その訳の分からなさにすら気付かず、見過ごしてしまっている、そういうものたちだ。よく超常的な存在について”人智を超えた”などという表現をするが、無知の極致たる私からすれば、テレビすら人智を超えている。UFOの特番を見ながら「うわあ、人智を超えているなあ」と思ったところで、まずUFOの特番を映しているこの四角い物体そのものが人智を超えていて、リモコンだって人智を超えていて、のんきにあぐらをかいているこの部屋そのものが、はたしてどうやって作られているのか、まったく想像ができないという有様だ。
日本全国の”ミチ”の紹介に特化したバラエティ番組「道との遭遇」を鑑賞してみると、道マニア17年、800か所以上の道を巡ってきたという石井あつこさんが登場した。番組にも幾度となく出演しているらしい彼女の、もう使われなくなった道=廃道への愛に圧倒される内容だったのだが、何より目の前の廃道に関する知識が凄まじい。私も廃墟や廃道にはそれなりに惹かれるタチなのだが、だからといって深堀りして調べようとまでは思えない。分からないものを、分からないままにしておくことができる。
しかし彼女はそうではない。今回の旅の目的地・山梨県早川町の廃道に向かう前に、まずその廃道の原点となった場所へと車を走らせ、明治時代までさかのぼって道の歴史を語る。とにかく何を聞いても必ず答えが返ってくるというような強靭さに圧倒される。ここで軽く話そうとも思ったのだが、要約するのもはばかられるほどの詳しさなので、是非ご覧になっていただきたい。旅の同行者である柿ピー研究家・中倉隆道氏の相槌やリアクションも相まって、タレント不在の二人旅ではあるものの、とても面白い番組になっている。
また、旅の途中には彼女すらもお目にかかったことのなかったあるモノが登場し、ひときわ感動する姿も。私なら旅の途中で見かけたって気にもかけないであろうモノでも、誰かにとっては凄く価値のあるものなのかもしれない。そう考えると、いつもの街並みもまた変わったものになってゆくはずだ。
それがアスリートであれ、研究者であれ、マニアであれ、なにかを極めた/極めようとする人間というのは気高く、いつも尊敬してしまう。私の知らない、ほとんど興味もない(と思っていた)ものを死ぬほど愛している人が、そのものについて熱く語る姿を見ると、その知識量と熱量がダイレクトに伝わってきて、それを吸収する私の中の世界がどんどん豊かになっていく。少なくとも「道との遭遇」はしばらく、私のこの欲求を満たしてくれそうなので、追っかけてみたいと思います。