コミックの映像化や、ドラマのコミカライズなどが多い今、エンタメ好きとしてチェックしておきたいホットなマンガ情報をお届けする「ザテレビジョン マンガ部」。今回紹介するのは、結月さくらさんによる『塩の星』。塩になってしまった人間を1人で砕き続ける孤独なアンドロイドを描いた同作。Twitterで公開したところ、2.5万件を超える「いいね！」を集めた。この記事では作者の結月さくらさんにインタビューし、作品を描いた背景やこだわりを伺った。
人間を愛するアンドロイドが"救い"のために塩になった人間を砕き続ける本作
科学者でありながら詩的な言い回しをする博士によって作られたアンドロイド・マキナは特殊なソーラーパネルによって太陽がある限り半永久的に生きられるようになった。マキナに対し優しい笑顔を向ける博士は塩となってしまい、マキナにとって初めて砕いた人となった。
時は流れ、天気は快晴が続くなか、マキナは104億人もの塩となった人を砕き続けていた。しかし、塩になった人間を砕きつづけた今でも、博士の「人の悲しみは塩の形をしている 水に許されて命になる」といった詩的表現は難しいと嘆いたのだった。
マキナが塩になった人間を砕き続ける旅を続ける理由をを自問自答していると、ポツリと雨が差し…。
アンドロイドであるマキナがあえて人間が救われることを願って塩を砕き続ける心優しい世界観を描いた本作。博士の詩的表現を理解しようとするマキナの健気さに、Twitterでは「美しいストーリー」「涙腺にくる」「引き込まれる世界観」などの感想が多く寄せられた。
「私が創作物で救われたように、私も誰かの人生をほんの少し助けられるような作品が描きたい」結月さくらさんのインタビュー
――『塩の星』はどのようにして生まれたのでしょうか？創作したきっかけや理由があればお教えください。
「真っ白な世界を歩いている絵が描きたい」というのがきっかけでした。だいぶ昔から「自分の体が塩になって、波打ち際で足から崩れていったら幸せだろうな」「人が塩になって崩れる優しい話を描きたいな」というアイディアだけはあったので、これは一面の白い世界という情景と繋げられるのではと考えました。
――塩になった人間を砕き続けるアンドロイド・マキナのキャラクターはどのように生み出されたのでしょうか？
まず、真っ白な世界を歩き続ける絵と塩になった人間を砕く絵、それに対して涙を流す絵が浮かんでいたので、そこからバックストーリーを考えました。
人間のことを好きなアンドロイドが、純粋な愛情によって自分の苦しみより人間の救済を優先して人間を砕いていたら面白いなと思いました。また、アンドロイドという人間が作ったものだけが人間を素直に愛してくれる役目を担ってくれるのではないかとも思いました。
――本作では、SF漫画の中に多くの詩的表現が組み込まれており、壮大な世界観と繊細な心情表現が印象的です。16ページという短編にまとめる上で苦労した点や描く上でこだわった点があればお教えください。
私は元々短いページ数でまとめるほうが性に合っているタイプなので、16ページにまとめるのは全く苦ではありませんでした。
何故塩なのか、何故砕くのか、という個人的なロジックに一般的な説得力を持たせるため聖書のエピソードをそれとなく引用してみたり、短いやりとりの中で博士のキャラクターを立たせること、マキナとの関係性をしっかりと見せることには注意しました。また、博士の笑顔の印象を強めるために、博士の顔全体が見えるコマを最後の台詞の箇所だけにしたのはこだわった点です。
――本作の中で、結月さんが特に思い入れのある(気に入っている)シーンやセリフがあれば教えてください。
気に入っているのは4P目の塩になった人間を砕くシーンと、ラストの跳ねる魚のシーンです。
砕くシーンは描きたかった絵であり、ラストは魚を描くことで生命の誕生、そこから進化を経てまた人間が生まれるのでは、という希望を暗示出来たように思うからです。
――結月さんは、本作以外にも海や植物など自然をテーマに組み込んだ作品を描かれているようにお見受けします。「自然」にフォーカスを当てている理由などはございますでしょうか。
元々、海に対して特別な感情があり、神聖視している部分があるので、そこが発端のように思います。
また、私にとって人間の不条理を理解し納得する術が、生物学を初めとした自然を理解する方向にありました。生命や自然物の成り立ち、構造、生存戦略を知ることは、人間を本質的に理解することに役立ち、そしてその理解は人間という生物として現代社会を生きるという実践的な部分に繋がってくるのではないかと私は思います。実際に私がそれによって幾分か生きやすくなりました。同じように、それが誰かにとっても救いになればと思い、漫画に落とし込んでいます。あと単純に自然は面白いことでいっぱいなので飽きません。
――最後に作品を楽しみにしている読者やファンの方へ、メッセージをお願いします。
面白い作品が描きたい、その上で私が創作物で救われたように、私も誰かの人生をほんの少し助けられるような作品が描きたい、と常々思いながら机の前で唸ったり突っ伏したりして頑張っているので、今後も何か描いたら読んで頂けたら嬉しいなと思います。
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