「成長」ではなく「バージョンアップ」
決定的な事実を突き止めた後、浅川に呼び出されファミレスで話すのだが、緊張の糸が切れたのか、隣の人が食べていた雑炊をみて、ひさしぶりに「食べる」ということをする岸本。帰るところがないからと浅川の家でひとしきり睡眠をとったあとも、まだ眠気がおさまらず、浅川の作った朝食を食べながらフリーズしているような、もしくはまだ眠いからぼーっとしているのかわからない姿を、浅川は「バージョンアップ中なのかもな」というが、このシーンには、岸本の可愛らしさもあふれていたように思う。
岸本はその後、情報番組が終わって経理部へ異動となるも、警察官との取引をリークされ、会社も追い出されてしまう。ひきこもるしかなくなった現在は、むしろ髭を剃り「イケメンみたいじゃない」とまで言われるが、それは少しでもまっとうな身なりをすることで、社会の一員たろうとしているのである。
彼のこれまでの変化は、「成長」とみることもできるだろうが、ドラマでは決してこれを「成長」とは扱わず、「バージョンアップ」としている。それは非常に納得のいくものである。
なぜなら、テレビ局の若手局員が、冤罪事件を追い、それを報じることを通じて、自身が「成長」する物語だとしたら、それは相当に都合がよすぎる。岸本は、岸本の中ではバージョンアップしたかもしれないが、何かを利用して「成長」したと見せないことが、このドラマにとっては重要なのではないかと思えている。最終回では、岸本がどんなところにたどり着くのか、もしくはどこにもたどり着かないのかを見届けたい。
■文/西森路代
カエルム株式会社
発売日: 2022/07/15