作詞家・川田まみからもらったエネルギー
また、南條が2022年4月に開催されたさいたまスーパーアリーナ公演で約13年間に渡って務めてきたfripSideのボーカルを卒業したことに寂しさを覚えているファンの方も多いと思うが、本作にはfripSideの作曲・編曲でも知られる齋藤真也によるトランシーなデジタルロック「この胸に名もなき星」を収録。前作の「青星」に続き、2016年にシンガーとしての活動は引退し、現在は作詞家に専念している川田まみとのタッグが実現している。
「まみさんは歳を重ねれば重ねるほど感じる寂しさや、躊躇してしまう気持ち、いくつになっても形を変えて存在し続ける葛藤や不安を書いてくれました。その中でも諦めきれない夢をもう一度期待してしまうような胸の高鳴りも込めてくれた。私は“強いな”って感じたんです。まみさんは、“女戦士”のイメージがあって。引退を発表した後のステージを袖で見させてもらったことがあるんですけど、自分を曝け出した、そのままの姿でステージに向かって行った。まみさんは歌うことからは引退したものの、今も女戦士のように戦い続けているんだなっていう姿勢が伝わってきて、すごく頼もしかったし、気持ちが奮い立たされたし。歌う決意も込められているので、エネルギーをもらえる曲だなと思いますね」
ファンのみんなと行った思い出や軌跡が描かれている地図
さまざまな旅をテーマにしたショートストーリーズを経て、本作のラストを飾るのが、彼女が歌う『グリザイア』シリーズでも長年タッグを組んできた藤間仁（Element Garden）が作曲・編曲を担当し、南條自身が作詞した「ジャーニーズ・トランク」だ。壮大なオーケストラは少しだけ湿った風を引き連れてくる。
「私の中では『カタルモア』に入ってる「光」の後日談。最初は不安な気持ちを抱えて歩き始めた「光」の主人公が10年経った今、どういう道を歩いているか。「光」に出てくる“地図”をずっとソロのモチーフとして持ち続けているんですけど、「光」のときはまだ何も明確な行き先が書かれていない、握りしめただけの破れた地図だった。5周年のときの「・R・i・n・g・」にも登場させていて、その地図には、ファンのみんなと行った思い出や軌跡が描かれています。最初は独りぼっちの旅だったけど、今はみんなと巡った足跡がたくさん描かれているっていう地図になった。その地図をこの「ジャーニーズ・トランク」でも持ち続けてて。独りぼっちでスタートした旅が、今は信頼できる人たちや応援してくれてるファンの人たちの存在をまわりに感じている。「私」が歩いているというより、みんなと一緒にわらわらと集団で歩いているような感覚ですね。ひとり旅ではなく、旅行のツアーガイドみたいになってるというか（笑）。まわりの景色も見ながら「あそこきれいだね！」とか言いながら、みんなで旅行してるみたいな感じですね」
そのトランクには、夜明け前の光が少しだけ差している。すでに11年目の旅の第一歩を踏み出した彼女は、地図を広げて、次はどこへ向かうのだろうか——。
「相変わらず大きな夢は特にないんですよね。でも、“歌う人”も“声の人”も続けていきたい。ファンの人と集まって、『久しぶり』『元気だった？』みたいに話し合えるような、肩書きはそれぞれ違っても、平成・令和と時代を生き抜いてこられたよね、みたいな。だから、最終目的地はきっと“集会”ですよね。最終的には『なんちゃん、かわいい！』みたいなのもなくなって、おじいさんとおばあさんが集まってお餅を食べながら話してるような、ただの“茶飲み友達”を目指します（笑）」
(取材・文／永堀アツオ)
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