担当編集者からみた作家・又吉直樹
九龍といえば、ピース・又吉直樹初の長編小説「人間」を担当したことでも話題。又吉は編集者である九龍からみて、どんな作家なのか。九龍は又吉が2015年に小説「火花」で第153回芥川龍之介賞を受賞したことを振り返る。当時、お笑い芸人が芥川賞を受賞したことに賛否両論が巻き起こったが、九龍からすれば何も意外なことには感じなかったという。
なぜなら、芸人は小説を書くのに向いている職業だと九龍は考えているから。日々コントや漫才でいくつもの設定を作り、競技人口が多い数々のお笑いの賞レースで戦っている人が「小説を書けないわけがない」と九龍は言う。実際に、月刊文芸小説誌「小説 野性時代」(KADOKAWA)電子版の2022年8月号にはラランド・ニシダによる読み切り小説「遺影」が掲載され、“暗黒青春小説”として話題となった。
ただ一方で、芸人としての仕事もこなしながら原稿を書かなければならないという難しさもある。特に又吉の「人間」は新聞連載だったため、絶対に原稿を落とすわけにはいかなかった。そのため、インドの路上で「アナザースカイ」(日本テレビ系)撮影中の又吉から、LINEで原稿が送られてきたこともあったという。
そんな編集者として様々なピンチを乗り越えてきた九龍が考える“かっこいい大人”とは、「ピンチのときでも笑っている人」。編集者には様々な仕事があるものの、その中で一番比重を占めているのが“トラブル処理”だという。人と濃密なコミュニケーションを取るため、関係性が拗れることも多いが、そういうときにこそ「編集者としての器が問われる」と言う九龍。彼自身もピンチのときに笑えるかっこいい大人を今も目指し続けている。