3月12日(※現地時間)の「第95回アカデミー賞」授賞式まで1か月を切った。どんな作品がグランプリに輝くのか、わくわくしている人も多いことだろう。それに先駆けて今回紹介したいのが、長編ドキュメンタリー賞にノミネートされた「ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦」。本作は2022年のサンダンス映画祭でプレミア上映されるや大きな話題をさらった、勇敢なフランス人科学者であるカティアとモーリス・クラフト夫婦が愛する火山との運命的な関係を描いた物語だ。幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が、本作の見どころを独自の視点からレビューする。(以下、ネタバレを含みます)
ポップでキャッチーな存在
私は自分の無知を正直に告白せねばならない。はっきり言って今の今まで、この夫婦の名前すら聞いたことがなかった。それでも優れた芸術作品は、未知のものを知る機会を与えると同時に、その存在を心に強く植え付けてくれるものだ。
カティアとモーリスが愛するものは、それぞれ2つ。互いと火山だ。本作は、タイトルどおり“火山に人生を捧げた”二人の姿を、彼らのアーカイブを基に描いたドキュメンタリー作品。
自分でも、見ているうちにのめりこんでいる状態であることが分かった。映画が終わるころにはクラフト夫妻の名がしっかりと頭に刻まれていた。そしていろいろ検索した。いかにも、彼らはポップでキャッチーな存在なのだ。
それはなぜか? 学者なのにちっとも学者然としていないところも理由の一つだろう。二人は1960年代後半に知り合った(カティアは、いわゆる姉さん女房)。世界的にはベトナム戦争、キング牧師やロバート・ケネディの暗殺、フランス5月革命、プラハの春、人類初の月面着陸といった時代の話である。
“火山推し”夫婦=最強タッグ
二人はデモにも参加していたようだが、最大の関心ごとは政治よりも月よりも火山であったようだ。二人の軌跡は、特に初期のものは、まるでオタクである。今の日本風に言えば「花束みたいな恋をした」みたいなものである。たぶん、あそこで描かれていた押井守とかガスタンクのようなシンボルが、この二人の場合、火山なのだ。二人とも熱烈な“火山推し”なのだから、もうここは結婚して一緒に火山を推しまくりましょう、ということになる。
並外れた情熱と知見によって二人の共同行動は、1+1=2をはるかに上回る効果を示した。命懸けの火山調査(それはエクスタシーと表裏一体であろう)で得たデータを共有し、それは火山学というものを何歩も前進させることになった。火山に対する安全や避難への認識も良いものに変わった。しかもモーリスは話術にも長けていて、テレビにもよく登場しては司会者や観客を喜ばせる。ちっとも学者らしくない。
https://www.disneyplus.com/ja-jp/movies/fire-of-love/
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