昭和の大人気バラエティ番組「痛快なりゆき番組 風雲!たけし城」(1986~89年、TBS系)が、各種動画配信サービスで配信中だ。Paravi、Amazon Prime Videoでは全129話から厳選した20話、TVerなどでも3月12日(日)までの限定で10話が無料配信されている。これにSNSは騒然。「昭和ってやばいw」「夜中一気観して寝坊した」「我が家は今、空前の風雲たけし城ブーム」「今観ても面白い」など多くの人が懐かしんでいるほか、「子どもがハマっている」「子どもが観て大爆笑している」など、実は若い世代にも刺さっているという声も多く見られる。だが「~たけし城」といえば、身体を張った一般視聴者参加型バラエティであり、コンプライアンスの厳しい今の時代にそのままを放送すれば「負傷者が出たらどうするんだ」などの声が挙がりかねない。何故、同番組は現在でも受け入れられるのか。また昭和のテレビの面白さとは。
「痛快なりゆき番組 風雲!たけし城」に至る昭和バラエティの変遷
昭和の時代、バラエティ番組の黄金タイムは土曜午後8時台だった。1960年代の終わり、この時間帯は「コント55号の世界は笑う」(フジテレビ系)とドリフターズの「8時だョ!全員集合」(TBS系)が人気を二分。だが「~世界は笑う」は1970年に放送終了し、TBSに軍配が上がった。
やや端折るが、その後、1981年に「オレたちひょうきん族」(フジテレビ系)が登場。「~全員集合」は台本通りの作り込まれた王道コントで勝負していたが、「~ひょうきん族」は面白ければタレントのみならずスタッフまでネタにするなど、アドリブと内輪ウケを重視していた。昨今では批判されがちなテレビの“内輪ウケ”はこの頃に熟成。これが当時の若者たちを魅了した。
だがこのキラキラした土曜8時台以外にも、人気バラエティは数多く存在した。日本中の若者が憧れの白いギターを獲得するために奮闘した「TVジョッキー」(日本テレビ系、1971~1982年)。奇人・変人のコーナーでは変人自慢の視聴者が参加し、このコーナーからは、とんねるずや竹中直人、柳沢慎吾、井手らっきょなどがタレントとして巣立った。
またこの時代の特徴といえば、アイドルとバラエティの蜜月関係。ドリフターズの影響でコント番組がヒットすると、桜田淳子、山口百恵、郷ひろみなどがゲスト出演。「カックラキン大放送」(日本テレビ系、1975~1986年)で、刑事ゴロンボこと野口五郎、そのほか、西城秀樹、近藤真彦、田原俊彦などがお茶の間を沸かせる姿を覚えている読者も多いだろう。
その後、萩本欽一の大成功で、ビートたけしをはじめ芸人がバラエティ番組を席巻し始める。またテリー伊藤が手掛けた「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」(日本テレビ系、1985~1996年)は、ビートたけしをして「今やっているバラエティ番組はすでにこの番組がやった」と言わしめたほか、安室奈美恵、観月ありさ、岡田准一、X JAPAN、劇団ひとり、的場浩司、山本太郎(当時はメロリンキュー)、COWCOW、2丁拳銃、稲森いずみ、よゐこ、矢作兼など数多くの芸能人、著名人が出演していた。
昭和のテレビの、今では信じられない「あるある」
話は最近に戻って2017年。全裸に股間だけをお盆で隠した姿でのネタでブレイクした芸人・アキラ100%の芸風に対し、放送倫理・番組向上機構(BPO)にクレームが殺到した。青少年に悪影響、公然わいせつなどの声が多数寄せられたが、これは昭和では考えられないことだった。なにしろ、昭和のバラエティでは男性の裸体だけでなく、ゴールデンタイムでも女性の裸が登場することもあった。深夜ともなると、さらに過激さを強調した番組が放送されていたからだ。
さらに喫煙への規制が厳しくなっている今では考えられないが、たばこを吸いながらのトーク番組も当たり前。今では「ピー」などが入る放送禁止用語も多く飛び出し、「~たけし城」のように素人にある意味危険が伴う番組や、一般人をドッキリに巻き込む番組もあった。罰ゲームも今では考えられないほど容赦なく、心霊番組や超能力者を名乗るタレントも多数登場。ほぼカオス状態であり、それがある種の“あやうさ”を感じさせ、視聴者を釘付けにしていた。
昭和のテレビの面白さはこの“あやうさ”にあったと思う。「テレビを観るとバカになる」など道徳的・倫理的にも問題視されていたが、一方では「テレビとはそんなもの」「バカになって観るもの」という価値観もあった。一般視聴者にとってテレビは一種の治外法権の場であり、またリリー・フランキーが著書「女子の生きざま」(新潮文庫)で用いた言葉『テレビの国』、つまり、いわゆる別世界、別の国という感覚もあった。SNS時代、誰もが世界中に発信できる今にはない感覚だ。
その“あやうさ”については、つい先日、東京・浅草の東洋館で行われた「たけし杯お笑い日本一」で、ビートたけしが参加した芸人について「芸人としての“あやうさ”がない。コンプライアンスやなんだっていってるから。テレビなんて面白くもなんともないもんな」と言及していた。
たけしは昨年放送された「レベチな人、見つけた」(テレビ東京)でも、「やりたいバラエティも映画もあるけど、今の地上波だとなかなか。SNSがあって、コンプライアンスとかいろいろ言い出したときに、自分はそういうのまで考えてやりたくない。そっちの世界じゃなくて、ネットでムチャクチャやろうかなと思っている」と、現代のテレビについて難しさを語っていた。ちなみにその“あやうさ”は現在、YouTuberなどに引き継がれているのだろう。