長らくテレビを見ていなかったライター・城戸さんが、TVerで見た番組を独特な視点で語る連載です。今回は「ヒロシのぼっちキャンプ」(水曜夜10:00-10:54、BS-TBS)をチョイス。
小さなサスペンスの積み重ね「ヒロシのぼっちキャンプ」
憧れはあるけど、実際にはできない。人生というのは、そうやって色々な事を諦めながら続いていくもので、努力は裏切るし愛は枯れるというのを身をもって味わいつつ寿命を数えていくのが人間の務め、知的生物は往々にしてくだらない、アーア、火炎放射器とか噴射してェーというような夜が皆さんおありでしょうが、花火すらロクにできない中、火炎放射器可の場所が都内にあるとは思えません。
なので代わりの発散方法を見つけなきゃいけないわけですが、そんなとき、「ああ、のんびりキャンプなんかしたいなあ」とか思います。静かな森なんかに行って、焚き火をして、朝に起きて、コーヒーを飲んだら、まず間違いなく、心になにか良い影響を及ぼすでしょう。火炎放射器より、焚き火の炎のほうがきっと綺麗なはずです。自然と調和をする、というのを、素直にやってみたい。
しかし、何を隠そう、私にとってのキャンプは、「憧れはあるけど、実際にはできない」ものなのです。
その理由はただひとつで、地面に座れないから。私には衛生面に関する強迫観念があって、ケツを地面につけることができないのです。自分のこの性質のせいで、あらゆる場面で損をしてきましたが、その中でも、キャンプができないというのは屈指の損です。ケツに地面をつけないキャンプだって不可能じゃないでしょうが、私は公衆トイレも使うことができません。銭湯にもプールにも入れませんし、外にあるものを触ったらその都度手を洗わなきゃ気が済みません。
そのくせ部屋が汚かったり同じTシャツを洗わず何日も着たりするんですから人間というのは分からないものですが、とにかく、キャンプとは、画面越しでのお付き合いしかできないのです。前置きが長くなってしまいましたが、今回は、「ヒロシのぼっちキャンプ」を見た感想を喋っていきたいと思います。
ヒロシのYouTubeチャンネルは何度も見たことがあって、ほとんど装飾のない、環境音と話声だけの内容が心地よく、布団の中でそのまま寝落ちするというのが幸せだったのだが、この「ぼっちキャンプ」もまさにそんな内容。やはり”夜の音”というのがたまらない。こういう音を最後に生耳で聞いたのはいつだろうか。
とはいえ、ただ癒されるばかりではいけない。キャンプは、見ているだけでドキドキハラハラ、あらゆるサスペンスが連続している。スーパーで卵が高いのも、外が寒いのも、斜面が疲れるのも、熱した器に触れてしまうのも、溶かした卵が吹き出してしまうのも、あずきが甘すぎるのも、焚き火を放置したまま寝てしまいそうになるのも、すべてがサスペンス、鑑賞するものとしてのキャンプの娯楽性を存分に高めているのだ。
ヒロシの穏やかな口調と動作、その静かな雰囲気に癒されながらも、手元では常にサスペンスが起こり、キャンプ未経験の素人が見ても楽しめるものになっている。これはキャンプそのものの力であり、そしてヒロシの力であろう。ホント面白いですよ。興味がある方は、是非TVerで現在配信されている#127と#128を。見るだけでこんなに面白いなら、私はキャンプはもう見るものとして決め込むから、色んな人にキャンプに行ってもらいたい。どうかお願いいたします。