「第80回ゴールデングローブ賞」で3部門を受賞、「第95回アカデミー賞」では8部門9ノミネートという話題作「イニシェリン島の精霊」が、早くも3月29日に配信開始した。同作は島民全員が顔見知りの平和な小さな島で、気のいい男パードリック(コリン・ファレル)が、長年友情を育んできたはずだった友人・コルム(ブレンダン・グリーソン)に突然の絶縁を告げられるところから始まる衝撃的なストーリー。幅広いエンタメに精通するフリージャーナリスト・原田和典氏が、本作の見どころを独自の視点からレビューする。(以下、ネタバレを含みます)
舞台は架空の孤島「イニシェリン島」
「第80回GG賞」の作品賞(ミュージカル/コメディー部門)であの“エブエブ”「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を抑えて受賞した今作。血が苦手な方にはある種の覚悟が必要な作品かとも思われるが、海外ではミュージカル・コメディー作品と見なされているようだ。物語の舞台はアイルランドにある設定の、架空の孤島“イニシェリン島”。描かれている時代は今からちょうど100年前の1923年、日本では関東大震災が起こった年でもある。
筆者は映画鑑賞には「劇場で楽しむ醍醐味(だいごみ)」と「家にいながらにして楽しむ醍醐味」の2つがあると思っていて、特にお気に入りの作品に関しては、最初に劇場の大音量と大画面を通じて味わい、その次のステップとして、気の合う仲間を集めて時には語り合いながら楽しみたいと考えるタイプであるが、この「イニシェリン島の精霊」、みんなで見たら、本当にあれこれと、あっと驚くような意見や見解が飛び交うに違いないと、今から一人ワクワクしている。
雄大な自然、風にそよぐ草花、実においしそうに飲まれていく黒ビール、俳優たちの味わいある表情、聖職者や警官のこなまずるさ、酒場のシーンで登場するケルト音楽(人気バンド、チーフタンズを思い出す)の響き、ロバや馬や犬の賢さなど、どこをとっても印象的で、いちいちストップモーションをかけて語り合いたいぐらいだ。繰り返すが、ロバや馬や犬など動物が本当に味わい深く撮れている。
ここに住む人間はどこかおかしい
だが、イニシェリン島に住む人間はどこかおかしい。ゆがんでいる。まるで閉塞の地、しかも、おぞましいほどの“しけり”がある。この島全体を妙な磁力が包み込んでいるかのようだ。自殺もしょっちゅう、謎の殺人事件も起こり、変人どもが下品な言葉を使って騒ぎ合う。コリン・ファレル扮(ふん)する主人公・パードリックは、家畜の乳を商店に卸して生計を立てている男。アイルランド本土には出たことがないが、本土帰りの、やけに口うるさい妹と暮らしている。
物語で彼と共に大きくクローズアップされるのが、ブレンダン・グリーソン演じるコルム。ガタイのいい老人音楽家で、バイオリン演奏の他に作曲もするし、後進の指導もする。パードリックとコルムの2人はこれまで一見仲の良い近所づきあいを続けていたが、ある日、コルムがこう告げる。
「俺に二度と話し掛けるな。お前が話し掛けるたびに俺は自分の指を切り落とす」。そんな言い回しだった。あぜんとしたのはパードリックだ。俺が一体何をしたというのだ、と。それに指はバイオリン奏者にとって、命のようなものではないか。何が何やら、分かったものではない。が、コルムは有言実行の男でもあった。袂を分かつ2人だが、狭い島であり、どこもかしこも近所のようなものだから、どうしてもパードリックとコルムは顔を合わせてしまう。
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