「現実を生きるために、見ていたい夢だってあるんだよ」
しかし、それを言うなら、岸井ゆきのもまさに「そこに存在している」と感じられる役者のひとりだ。岸井は「ケイコ」についてのインタビューの中でケイコがボクシングを続ける理由を問われ「それが言葉にならないから続けてるんじゃないでしょうか」と自分と重ねながら答えている。
「人生も生活もままならないというか、思い通りにはいかないじゃないですか。でも、その中でボクシングの稽古をしている時は、『そうだ、できる』という瞬間があるんですよ。自分で舵を取れる瞬間というんでしょうか。生活や人生に直接は作用しないかもしれないけど、その『今』は続いている。その継続で、気付いたら時が経っているのかな」(「TOKION」2022年12月20日)と。ままならない人生の中で、映画を観て、演じて、フィクションの中に存在することで救われてきた。「SICKS」で岸井演じるつばめのこんなセリフがある。
「現実を生きるために、見ていたい夢だってあるんだよ」
その切実さに僕らは救われるのだ。
文=てれびのスキマ
1978年生まれ。テレビっ子。ライター。雑誌やWEBでテレビに関する連載多数。著書に「1989年のテレビっ子」、「タモリ学」など。近著に「全部やれ。日本テレビえげつない勝ち方」
※『月刊ザテレビジョン』2023年6月号