穣は豊の存在の大切さを伝える
穣が種の手を引いて歩いていると、種が抱っこをせがむ。穣が抱っこしないといさめていると、道路に寝転がって駄々をこねる種。公園にいた女性たちが子どもがかわいそうとささやいているのが聞こえてくる。
堪忍袋の緒が切れた穣は「もう知らない、そこで一生寝てろ」と声を荒らげて立ち去っていく。すると種の元に豊がやってきて、「そんなところで寝てたら危ないよ」としゃがんで優しく声をかける。種が立つと、「そうそう」と肯定してやり、偉い偉いと頭をなでてあげる。種がさらに幼くてあどけなく、豊のなにげない言葉やしぐさがやわらかくてほっこりとさせられる。
穣は慌てて駆け寄ると、豊は種に「じゃあね、バイバイ」と手を降って行ってしまう。腰をかがめて種に合わせて目線を低くしてやるところが豊らしい。穣は去って行く豊の姿をずっと見つめている。
穣は「あのときすごくうれしかった。助けてくれて。久しぶりに温かい気持ちになった」と豊に話す。そして、頭をなでてくれた豊の優しさを思い出しながら穣は意を決したように「豊、俺、豊が好きなんだ」とまっすぐに豊を見つめる。豊が驚いてもなお「好きだ」とストレートに口にする穣。
さらに、「豊と会って、一緒に過ごすようになって俺、久しぶりに生きてて楽しいと思った。今度は豊と何食おうとか、何しようとか、豊が居てくれると思うと安心するんだ」と穣は思いの丈を伝えるのだった。
包み隠さずまっすぐに豊に気持ちを伝える穣にジーンと胸が熱くなる。どんなに勇気がいっただろうと思うと切なくなり、穣の誠実な表情にも感動させられた。
◆構成・文=牧島史佳