今その瞬間に会いたい人に会って、食べたいものを食べる
「どうしてもっと早めに言ってくれないの?」
脚本家の藤本有紀は、青木崇高に当日になって食事に誘われてそう尋ねたことがあったという。そのとき、青木はこう答えた。
「すみません。僕はいつも今、誰と、何を、なんです」
今その瞬間に会いたいと思う人に会って、食べたいと思うものを食べる。そうやって1日1日を気分良く過ごすことが、結果的に自分も周りも幸せにする。そんな彼の姿を見て「ちかえもん」(2016年NHK総合)の主人公の万吉は「青木くんだったんだ」と確信し、その物語を書き上げることが出来たと青木宛の手紙に綴っている(「スタジオパークからこんにちは」2016年1月14日NHK総合)。
事務所の応募写真はパンツ一丁の裸姿
まさに直情的。恵まれた体躯とワイルドな顔立ち。ど迫力の風貌で豪快な男を演じさせたら右に出るものはいない。彼の出世作である朝ドラ「ちりとてちん」(2007〜2008年NHK総合ほか)も藤本有紀の脚本。大きく強面で純粋な徒然亭草々にぴったりくる役者はなかなか見つからず難航したが、青木がオーディションに現れた瞬間、「やっと草々に会えた」と満場一致で出演が決まったという。
イメージを裏切らず南極大陸以外の全大陸をバックパッカーとして旅していたという青木。「人生最高レストラン」(2023年6月17日TBS系)で語られた芸能界入りのエピソードも豪快そのものだ。「素人に毛の生えたぐらいが一番モテそう」という理由でCMに出たいとバイト感覚で事務所に応募した。
その際、際どいパンツ一丁の裸で段々忍び寄ってくるような写真を十数枚送ると、「ちゃんとした写真を2枚送ってください」という返事が来て、しめしめ食らいついたと思ったという。面接では「モデルは今ハーフブームだからね」と言われカチンと来て「ブームっていうのはこっちからしかけるものだから今ブームになっているものを狙っても意味なくないですか」と反論。
「どういった役者やりたいの?」と聞かれると「精神異常者だったり、殺人犯だったり、そういう特徴的な役より、日常にいるごく普通の人間を演じるほうが僕は難しそうで挑戦したいなって思います」と映画雑誌で読んだティム・ロスが言っていた言葉をそのまま言うと「わかってるじゃん」といった反応をもらった。
さらには「本読み」するために台本を渡されると、10分ほどの練習時間で、持っていたペンでセリフを書き換えた。「脚本家の作品だから」と注意されても「面白くないから書き直しました」「脚本家が絶対だとは思えないです」と言い放つ。「素人に毛の生えた」どころか、最初から心臓に剛毛が生えた豪胆な男だったのだ。