猫猫が明かす実父・羅漢への思い
外廷に戻って来るなり、壬氏に呼び出される猫猫。壬氏は猫猫が羅漢を恨んでいると思い込んでいたので、彼女の今回の行動に驚いていた。けれど、猫猫は羅漢を恨んでなどいない。彼女は羅漢が鳳仙を孕ませたというより、鳳仙は自らの意思で羅漢との子を設けたと考えている。そうすることで身請けが破談になり、羅漢と一緒になれると思ったのかもしれない。
けれど、羅漢が遊学に出てしまったことで当てが外れた。精神のバランスを崩し、自らを傷つけることも厭わず、赤子の指まで切り落として羅漢に送りつけた鳳仙。「女とは狡猾な生き物です」と猫猫は壬氏に言い放つ。ただの美談で終わらせないところが、本作らしいといえば本作らしい。
腕の立つ薬師である羅門(CV:家中宏)の娘になれた点においては、むしろ羅漢に感謝しているという猫猫。ではなぜ、彼に冷たい態度を取っていたのか。それはある種の嫉妬でもあった。天才的に勘が鋭く、面倒なことを他人に押し付けて、さり気なく色んなことを解決していく羅漢。祭事にまつわる一連の事件だって、羅漢本人が早く動いていれば、犯人である翠苓を捕らえて“蘇りの薬”についても聞き出すことができたかもしれない。
一言で表現すれば、鼻につく羅漢を父親とは認めがたいだけなのだ。同じ父親として思うところがあるのか、「世の中には 好きで嫌われる父親なんて いないと思ってください」と天を仰ぐ高順(CV:小西克幸)の哀愁漂う表情にくすりと笑いがこみ上げた。
最終回に相応しい猫猫の見事な舞
数日後、梅梅から猫猫に贈り物が届く。中には、誰が誰に身請けされたか書かれた手紙と、美しい布帛(ひれ)が入っていた。「いい? 猫猫 私が身請けされる時は ちゃんと踊るのよ」と微笑む梅梅の顔が猫猫の脳裏に浮かぶ。
その夜、後宮の外壁の上に立つ猫猫がいた。上着を脱いだ彼女は華やかな衣装を着ており、唇には珍しく紅が引かれている。束ねていた髪を下ろすと、そこに青い薔薇をつける猫猫。すると、彼女はかつての芙蓉妃のように、梅梅から贈られてきた布帛を操りながら舞う。
星空の下、アオイエマ。が歌う挿入歌「想い咲く時」をバックに披露する猫猫の見事な舞は美しく、それでいてどこか切ない。花街では、身請けされた妓女を見送るとき、他の妓女たちが舞を踊る。本当は誰よりも優しい梅梅を、見送りたかった。けれど、優しい梅梅だからこそ、羅漢に鳳仙の存在を知らせるであろうことを猫猫はわかっていたのではないか。誰もが幸せになる道はない。このちょっとした後味の悪さと切なさが本作の魅力でもある。
外壁から足を滑らせて落ちそうになった猫猫の手を掴んだのは壬氏だ。羅漢が鳳仙をいくらで身請けしたのかはわからないが、外壁に立つ2人からも見えるほどに花街には無数の光が灯っている。妓楼にいた頃、猫猫は母親の存在について知らされていなかった。
けれど、やがて緑青館がつぶれかけた原因が、自分にあることを知り、度々見る悪夢が現実だったことに気づいた猫猫。曲がった左手の小指を見つめながら、「指の先って 切っても伸びてくるのですよ」と壬氏に語りかける。その言葉に身体がぞわっとする壬氏。さらに踊ったことで足の傷が開き、猫猫がその場で縫おうとすると彼の顔は見る見る青ざめる。すると突然、壬氏は猫猫を脇に抱えた。外壁から飛び降り、猫猫をお姫様抱っこに持ちかえる。
そんな壬氏の腕の中で、「ずっと言いそびれていたことがありました」と珍しくしおらしい様子を見せる猫猫。その憂いを帯びた瞳に壬氏がドキドキしていると、猫猫から出た言葉は「牛黄(ごおう)をください」。相変わらずの2人に微笑ましさと一抹の寂しさを覚えた。しかし、その直後に、TVアニメ「薬屋のひとりごと」の第2期が、2025年に放送されることが決定した。視聴者からは「完璧すぎる最終話」「最初から最後までずっと楽しかった」「制作陣の皆様、素晴らしいアニメをありがとうございました!」「久々にロスになりそうなくらい寂しい」「2期も楽しみにしています!」という声が上がった。
◆文=苫とり子
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