「逆説的にテレビドラマの可能性を感じることができた」
――キャスティングはどのように行われましたか?
上浦:我々と同じように加藤拓也さんが好きで、一緒にワクワクしたものをつくりたいと思ってくださった方が奇跡的なメンバーで集まってくださいました。本当に感謝しかないです。
――放送開始後の視聴者からの反響をどのように感じていますか?
上浦:今までと全く違う客層の方にも広がっているなという印象がありました。これまである程度のドラマ制作を経験してきて、商業的な部分に大きな重点を置いたドラマづくりから自由になって、一度チャレンジしてみたいという思いがありました。
ただ、商業的なところから自由になるということは、“広く浅く”ということとは相反すると思っていました。なので、たとえ少ない人であっても、深く届けられればいいなと。
ですが、TVerの回り方を調べたりエゴサをしていても、思ったよりも広い範囲にしっかり届いているという印象があって、それがすごく幸せでした。
これまでのドラマの慣習から解き放たれて自由になった気持ちでつくった作品が、こんなにも多くの方に届いたことで、逆説的にテレビドラマの可能性を感じることができてうれしかったです。
――確かに、これまでに類を見ない作風が話題となっていますね。
戸倉:加藤さんは、映画も演劇もドラマも全部やられている人で、上浦さんや僕はドラマや映画、林田さんはCMや広告回りが主戦場で。メインスタッフの方々も、いろいろな分野のプロフェッショナルがいたんです。加藤さんの脳内を実現するために、林田さんが映像ジャンルの畑を超えて素晴らしいスタッフの皆さんに声を掛けてくださいました。
林田:監督から「ドラマに興味ありませんか?」とお声掛けをいただき、即答で参加させていただきました。今回、映像・演劇・VFX・アニメーション・紙芝居とジャンルが多岐に渡っていましたが、それぞれどう実現するかはとても難しいことでした。
演劇的アプローチが必要なスタジオシーンは、舞台や映画で活躍されている福島奈央花さんの存在が不可欠でした。そして、ロケシーンとスタジオシーンで全く異なる世界を、海外でも活躍されるカメラマンの木津俊彦さんが丁寧に映像で切り取ってくださいました。
ある意味主人公とも言える“穴”については、VFX分野において絶対的信頼のある格内俊輔さんがデザイン構想から参加してくれたので、あのなんとも魅力的な穴ができました。
各ジャンルのプロフェッショナルや、オープニングアニメーションの若林萌さん、ポスタービジュアルのRakさんなどの魅力的なクリエイターの方々が引き受けてくれたからこそ、「ジャンルごちゃ混ぜドラマ」が実現できたと思っています。
上浦:林田さんのお声掛けによって、ご一緒できるとは思っていなかったような人たちが集まってくださったなという印象です。全員が手探り状態でしたが、プロフェッショナルな方たちもそれを逆に楽しんでくださったというのが、すごくうれしかったです。
いろいろな方がたくさん頭を悩ませて、誰も見たことのない世界へ行こうとしたという、このお祭り感というか、みんなでチャレンジしたという経験が財産になりました。
――最後に、最終回に向けての見どころと視聴者へのメッセージをお願いします。
上浦:例えば美術館に行ったとき、きっちり説明を読んで一から順番に見ていったり、これには何かしらの意味があるのではないか、完全に理解しないと意見を言ってはいけないのではないかという敷居の高さを感じることがあると思うんです。
でも本当は、好きな絵だけを好きなように見て、「なんだかおしゃれだね」「分からないね」「変だね」「かっこいいね」とそれぞれ好きな感想でラフに帰っていい場所なんですよね。
今回の作品でも、もしかするとそういった一見敷居の高そうな印象を出してしまっているのではないかという思いが定期的に浮かんで、そこだけが少し気掛かりです。皆さんにはぜひ、気楽に、自由に、直感的に楽しんでいただければなと思います。
大きなクリフハングがあるわけではないですが、6人でも7人でもなく、8人全員の人生を知った先に見える景色があるはずなので、ぜひ最終回まで見ていただきたいと思います。
また、一緒に楽になってもらえるといいなとも思っています。生きるということは、どうしても苦しい瞬間もあるし、誰しもが、誰かに共有したかった悩みや誰にも言えなかったトラウマを抱えていると思うんです。
人生を振り返ってみると、些細な出来事でも実はしこりがあったなと思う瞬間があって、それを思い出さないようにしていたり、思い出せなくなってしまっていたりすると思うのですが、8人分の人生を見たときに、皆さんの抱えているわだかまりが少しでも軽くなるといいなと思っています。それが、このドラマが持っている強さなのではないかと思います。