【テレビの開拓者たち / 福山晋司】「関ジャニ∞クロニクル」演出家が語る“震災以降のテレビバラエティー”
関ジャニ∞はメンバーそれぞれが魅力的だからこそ、彼らの“人”を描きたい
――では、関ジャニ∞の魅力とは?
「これは自戒の念も込めて感じることなんですが、テレビの笑いって先ほどから話した流れもあって、今どんどん自粛される傾向にあるじゃないですか。作り手がみんな、コンプライアンスという言葉に敏感になっているけど、実際、そこには明確な基準はなかったりする。ところが、関ジャニ∞のメンバーからは、そういう自粛ムードは一切感じない。誰も縮こまっていないんですよ。いい意味で“ノールール”と言いますか、『これが俺らやから、こうします』っていう潔い感じが新鮮なんですよね。
それと、彼らは立派なアーティストとしての顔を持っているという点が大きい。音楽的素養があるからリズム感もよく、トークのテンポ感はもちろん、バラエティーでの立ち回りがうまい。さらに彼らは音楽でいい仕事をすると、バラエティーでも突き抜けるんです。振り子の理論でいえば、彼らが音楽的に成長すればするほど、バラエティーにも見返りがある。『バラエティー番組ではバカなことをしてるけど、音楽をやっているときはかっこいい』という、今や稀有な存在だと思いますね。だから僕は、音楽業界で彼らが話題になればなるほどニヤニヤしちゃうんですよ、『よ~し、次の「クロニクル」での収録はこんなバカなことをさせよう』とか思って(笑)。そうやってバランスを取りながら、いろいろな可能性の種を蒔いていきたいと思っています。
『クロニクル』を作る上で心掛けているのは、メンバーそれぞれが魅力的だからこそ、彼らの“人”を描くこと。僕は本が好きでよく読んでいるんですけど、小説にしろ随筆にしろ、時代が流れても色あせない名作と言われるものは、しっかりと人を描いているものが多いんですよね。
実は『ピカル』のころの僕は、かなり細かい演出をしていたんです。もしかしたら、フジテレビの中で一番細かい作り方をしていたかも(笑)。『ピカル』では、ときどき生放送をやっていたんですけど、そのときの台本なんて、平気で100ページくらいありましたからね。しかも1ページずつ読み合わせをしては、尺を計測したりして。でも『クロニクル』では、メンバーにほとんど台本を見せていないし、あえて建て付けの甘い台本にしていて(笑)。台本からはみ出してもいいし、何なら台本をつぶしてもいい。とにかくメンバーたちには好きにやってもらおうと。関ジャニ∞は、年長組(横山裕、渋谷すばる)が1981年生まれで、僕が1980年生まれだから、ほぼ同世代なんですよ。彼らと各局で一緒に仕事をしている演出家の中で僕が一番若いと思うので、彼らと横一線に並んで番組を作っていけることこそが、キャリアの浅い僕の強みでもあると思っています。ああでもない、こうでもないと言いながら、同じ方向を同じ速度で走っている感覚。同世代だからこその関係性を大切に、そしてその同じ世代のやつらと作ってる空気感が画面に出ればと思ってます。
また、番組作りにおいては『何、これ?』という“違和感”も大切にしています。この前も『いきなりドッジ』の企画で、錦戸(亮)くんがピザの耳を食べずに残すという、本筋とは全く無関係な話でケンカが始まって。30過ぎの男性がピザの耳を残した残してないで怒ってる光景って、もう違和感しかないじゃないですか?(笑) だから普通はカットするようなシーンなんですが、この番組では、そのくだりを延々と5分ぐらい見せてしまうわけです。それが『関ジャニ∞クロニクル』という番組ならではの面白がり方だと思うし、そうやって違和感のあるシーンも編集で残すから、メンバーたちも『ありのままの自分らでええんや』と思って、さらに自由に立ち振る舞うことができる。そのあたりの“あうん”の呼吸は、最近特にイイ感じになってきたかなと思ってます(笑)」