一切妥協なしの調理シーン、1シーンのために「9皿くらい作った」
――尾花夏樹という役を演じる上での感覚というのはすぐに取り戻せましたか?
自分が役を取り戻す、取り戻さないというよりかは、キャストたちが、その場に、そのシチュエーションに、その衣装を着ていてくれるだけで、それぞれのスイッチが同時に“カッ”と入るような感覚がありました。
やはり、“チームグラメ”のキャスト陣がそろったというのは大きいと思います。それに加えて、窪田さんや北村さんという新たな存在、お料理を比喩して言わせていただくと素材が加わってくれることによって、見せ方が変わったというのはすごくありがたかったです。
――調理シーンは実際に木村さんご自身が調理をされていると思うのですが、撮影現場での調理にまつわるエピソードがあれば教えてください。
連続ドラマの第1話で、フランスのビストロの厨房をお借りして、倫子さんに手長エビのエチュベを振舞うシーンがありましたが、その料理も実際に全部自分が作っていました。「今度はこっちから撮ります」とか何度もテイクを重ねていく中で、やっぱり冷えたエチュベを食べてほしくないなと思い、9皿くらい作ったのかな。
いくら目の前のお料理の工程が簡単であったとしても、その方の体の中に入っていくというその一部分を自分が担うということの責任と喜びはありましたし、お芝居なんですけど「すっごくおいしい…なんで私にはこれが作れないんだろう」と涙を流す倫子さんを、その場で目の当たりにした時に、どこかスイッチが入った感覚がありました。
――連続ドラマに続きスペシャルドラマで監修された岸田周三シェフとの出会いは、木村さんや尾花にとってどのような影響をもたらしましたか?
岸田シェフに関しては、「グランメゾン東京」というお話を作らせていただくにあたって、ものすごく大きく、そして太い柱になってもらったと思います。
もちろん、「カンテサンス」の岸田シェフと認識してはいるものの…不思議な感覚があって。今日も、(取材前に参加した『ミシュランガイド東京2025』の発表セレモニーで)“「グランメゾン東京」のスタッフが三つ星を取った”という感情で、壇上に上がってくる彼を見ていたので…それもきっと正解なんだけど、あくまで「カンテサンス」の岸田シェフなんですよね(笑)。
――今回、映画で尾花が金髪なのは、監修された小林圭シェフが金髪だからなのでしょうか?
僕、実は(小林シェフに会うにあたって)画像検索をしていなくて。パリにそういう方がいるということは耳にしていましたし、今度彼が映画「グランメゾン・パリ」の監修をしてくださるということや、舞台がパリになると聞いて“すごいな”と思っていました。
「グランメゾン・パリ」の前に、スペシャルドラマを構築するにあたって、脚本を読ませていただいた時に、すごく面白かったんですよ。それで「早くやろうよ」という話をしていたのですが、どう尾花は存在しているんだろうと考えた時に、きっと、尾花夏樹という人は“あの時のまんまだね”という形容じゃないんだろうなと思ったんです。
きっとその間にも彼はいろんな国に行って、いろんな料理を口にしてきているはずなので、どうなっているんだろうなと思いながら、いつもお世話になっているヘアサロンに行って「また『グランメゾン』をやるんだよね」と言ったら、スタッフの方が「マジっすか、ちょっと思い切って全頭(ブリーチ)いっちゃいましょうよ」って提案してくれて。
「待って、1回監督に確認していい?」となって、塚原さんに連絡して「アリですか?」と聞いたら「見てみないと分からないですね」と返されてしまって、そりゃそうだよなって(笑)。
とりあえずやってみようという話になり、全頭ブリーチをした状態で衣装合わせに行ったら、みんな「ハア~…!」っていう顔していて。“これ完全に不評じゃん”って思っていたら、その中の何人かが「これですか?」と見せてきたのが、(小林)圭の写真だったんです。
そこで「え、小林シェフって金髪なの!?」ってなって。でも、パリにいる彼がとった選択としてナシではないのかなと。日本におけるファッションって、今こういうのが流行っているよねみたいなものに合わせて自分を変えてみたり、チャレンジしたりする風潮ってあると思うんです。
でも、パリに行って思うのは、“私はこれが好きなの”っていう方ばっかりで。その中にいる尾花夏樹ってどういう選択をしたのかなと考えていた中で、パッと見せられた圭の金髪を見た時に「うわ、被った…!」というのは正直思いましたし、本人に初めて会った時はちょっと照れましたね。
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