「億男」原作・川村元気氏、自分が書いた小説を俳優が演じることで「濃い豚骨しょう油味みたいなものになる」
せっかく小説を書くなら映画にならないものを
──ちなみに、執筆中から映像化を意識していたんでしょうか?
普段は映画を作っている立場なので、せっかく小説を書くなら映画にならないものを書こうと思っているんです。例えば“世界から猫が消えたなら”という文章を読むと、人はその文章から風景を想像することができるけど、映像化する時にどういうカットを撮ればそれを表現できるのか、と悩んでしまう。そんな風に、小説では映画が苦手なことを使って書こうと思って。お金というのも、大金を手にした時の高揚感とか、だまし取られたときや失った時の絶望感って映像にしにくいんですよね。“お金がほしい”とか“お金は怖い”とか、ああいう感じってすごく映りにくいものだと思うんです。その一方で、シーン立てや構成はめちゃくちゃ映画的にしちゃうんですよ(笑)。映らないものを書いているのに、読んだ人には映像っぽく読めるという不思議なものができる感じで。今回も、いざ脚本化していくとなった時に、大友啓史監督をはじめ、皆さん苦労されたんだろうなと感じました。
──映画化の話が来た時はどう思われましたか?
映画化の話は、以前「寄生獣」(2014&2015年)を一緒にやった(制作会社の)ROBOTの守屋圭一郎プロデューサーからいただきました。僕は、「スラムドッグ$ミリオネア」(2008年)、「マネー・ショート 華麗なる大逆転」(2015年)といった、お金をテーマにした映画が好きで。その中でも一番好きなのは「マルサの女」(1987年)なんですけど。守屋さんに最初に伝えたのは、「ああいう映画になったらいいなあ」みたいなつぶやきでした(笑)。
監督を大友さんにというのも守屋さんからの提案です。僕は、大友さんが演出された「ハゲタカ」(2007年NHK総合、2009年には映画版が公開)が大好きで。マネートレードという目に見えないものをあれだけ緊迫感を持って描かれていて、散々お金について考えたんだろうなと思ったんです。なので、「ハゲタカ」を撮られている大友さんが監督をするというのは僕の中で腑に落ちましたね。小説はすごく淡々としているので、大友さんには「『マルサの女』のような活劇にしてほしい」と言いました。大友さんはひたすら「抽象じゃなく、具象にしないとダメだ」とおっしゃっていたのをすごく覚えています。
公開中
監督=大友啓史/出演=佐藤健、高橋一生、黒木華、池田エライザ、沢尻エリカ、北村一輝、藤原竜也ほか