「億男」原作・川村元気氏、自分が書いた小説を俳優が演じることで「濃い豚骨しょう油味みたいなものになる」
俳優が演じることで、濃い豚骨しょうゆ味になる
──実際に完成品をご覧になっていかがでしたか?
とても活劇になっていたと思います。オープニングから、すごくアグレッシブな映画になっていて。モロッコも実際にロケをして画になってみるとすごい説得力があって。僕、バックパッカーでモロッコに1人で行ったことがあるんですけど、映画の風景を見て懐かしかったですね。あと、自分の仕事に立ち戻って見てみると、映画って監督の力はもちろん、俳優の力が大きいなって改めて思いました。藤原竜也さんがお金をばらまくシーンを見て、こんな風に面白く書けないなと思ったし、彼が放つうさん臭さも文章では表現しづらいなと。小説では出てくるキャラクターの異常な様は書いていますけど、そこを淡々と書いたので、俳優が演じることで“濃い豚骨しょう油味”みたいなものになっていて(笑)。すごく濃いなあと思いながら見ていました。
──物語の中心人物となる一男と九十九を演じられた、佐藤健さんと高橋一生さんの印象は?
健くんは僕が一番信頼している俳優です。映画「世界から猫が消えたなら」(2016年)でも主演をやってもらって運命を感じています。やはり、僕が書く小説の主人公って“世間”なんですよね。世間って無責任だし、何も考えずに間違ったことをしてしまう。でも、紛れもなく自分とつながっているワケですよね。その感覚を1人の人間で表現するってすごく難しいんだけど、健くんがやると“世間”に見えるんですよ。今回も、彼のお金を探す冒険ですし、彼の目を通じて見えていく作品なので、いい意味で佐藤健という存在が消えて、映画に溶け込んでいく感じがあって、それはすごい才能だなって改めて思いました。
一生くんは、今回お金の天才であり神様みたいな九十九というキャラクターを演じていますが、まあめちゃくちゃ難しい役だろうなと思って。劇中で落語もやらないといけないし。九十九がお金のサイズと重さを語り出すシーンがあって、それは原作でも書いたところなんですけど、見ていて“九十九はこういう風にしゃべるんだ”って原作者ながらに驚いたというか、“こういう風にしゃべるだろうな”と思わされたというか。そこは映画になったことで最大のうれしかったところかもしれないですね。テキストでしか想像できなかったところを、俳優がしゃべっている。それが誰かに伝わることが、こんなに感動するんだと思ったのは一生くんのおかげだなと思いました。
公開中
監督=大友啓史/出演=佐藤健、高橋一生、黒木華、池田エライザ、沢尻エリカ、北村一輝、藤原竜也ほか