池田「悔しくて言いたくなかったんです」
――撮影中に蜷川監督からアドバイスをされたことは?
私は、なつめの「咲かなきゃ散ることもできない」というセリフが悔しくて言いたくなかったんです。私自身も感じたことがあって、それを言うことで言霊になってしまったらどうしようという思いがありました。そういう時に実花ちゃんが心をほぐしてくれるというか、やわらかくしてくれるんです。
私も「こういうことがあったよ」って自分の経験を話してくれたりして。だから、すごくいいシーンが撮れたと思います。もう“激エモ”です(笑)。
――完成した作品を見た印象は?
実花ちゃんらしい美しい美術に華やかな出演者。最高級のものを見ているような感じがするのに、登場人物たちはすごく初歩的なところでつまずいているんです。
家庭や恋愛のことだったり、仕事の人間関係だったり。みんなきらびやかなものを手に入れるために、何か大事なものをないがしろにしてきたところで苦しんでいる。それがとても面白かったですね。
今回は実花ちゃんが本気で人間を撮りにいった作品なんだなって。素晴らしいクリエーターたちとタッグを組んで最高品質のものを見せるから人間としては未熟なところをしっかり捉えていく。そこがこの作品の魅力なのかなと思いました。
――奈良リミ役の中谷美紀さんとの共演はいかがでしたか?
中谷さんはすごく聡明で、ワクワクを忘れていない方。学ぶことを楽しんでいるんです。いつも何かにドキドキしている感じがすてきだなと。
実業家のエリコを演じていた夏木マリさんも一つ一つの所作に品があって、全部美しく見える。とても魅力的な共演者の方々に囲まれた現場でした。
――今と昔で「東京」に対する印象は変わりましたか?
昔は東京でどうにかなれる、変われるんだって思っていました。でも、考えてみたら東京も発展途上なんですよね。どんどん様変わりしていく。
もちろん、東京が一つのきっかけであることはうそじゃないけど、日本自体がまだ個性や多様性というものを一つのジャンルとして見ているような気がして。
東京も、みんなが多様であるべきだっていうところに向かっていく途中なのかもしれません。
だから、期待し過ぎると悲しむハメになるし、かと言ってナメていると得られるものも得られない。もっと東京に対してラフでいいんだと思います。今、話をしながら東京とSNSってすごく似ているなって感じました。
――どういうところが似ていますか?
情報過多で、どこかカオスなところ。SNSではいろんな記事があるけど、結局誰かが書いている言葉。その人の私見も混じっているじゃないですか。でも、それが全てではないというところが、東京もSNSも同じかなって。
常に自分というフィルターを持っていないと、全部の情報が正しいものとして入ってきちゃう。過剰摂取は危険だからきちんと用法、用量を守ってくださいという感じです。
――ちなみに、SNSとの向き合い方は10代と20代で変わりましたか?
高校生の時は何かを発信しないと自分が消えちゃうと思っていました。これは、なつめと一緒。フォロー数が自分のHP(ヒットポイント)になるような感覚でした。
でも、ネットの世界から外に出るようになって、いろんな現場でいろんな人にお会いするうちに少しずつ変わってきたような気がします。
SNSをやっていると自分のことを卑下しちゃうんですよ。その世界にいる、悲しい言葉を言うある一部の人たちの声がすごくダイレクトに自分の中に入ってきちゃうから、もっと自分のことを素直に応援してくれている声に耳を傾けた方が幸せになれるんじゃないかなって思うようになりました。
SNSって中毒性があるので依存しやすい。だから、SNSだけに重きを置かなくなってきたのかなと思います。