松田龍平主演ドラマ「ストレンジャー」、芥川龍之介の視点で描き出す新しいドラマの方向性
7月9日に「第10回 衛星放送協会 オリジナル番組アワード」の各部門最優秀賞が発表され、ドラマ部門では「スペシャルドラマ『ストレンジャー~上海の芥川龍之介~』」(NHK)が受賞した。
同ドラマは、芥川龍之介の「上海游記」を原案に、実話を基に描いた松田龍平主演のフィクション。1920(大正20)年に大阪毎日新聞の特派員として上海を訪れた芥川の視点で、当時の中国の動乱を描いている。
芥川龍之介といえば日本が誇る大作家で、その名を冠した新人文学賞「芥川賞」は現在まで続く最も有名な文学賞の一つ。また、35歳という若さで服毒自殺した事もよく知られている。しかしながら、同ドラマでスポットを当てている新聞社の特派員として上海を訪問していたことなどは知る人ぞ知る話だろう。
そんな中で、このドラマが“知る人ぞ知る”芥川の上海訪問を題材にして伝えたかったこととは何だろうか?
芥川の生涯をひもとくと、晩年には自分の人生を見つめ直していたり、生死を題材とした作品が多くなるほか、心中未遂事件を起こしたり、遺書には「この二年ばかりの間は死ぬことばかり考へつづけた」と書き残しているなど、心を病んでいたと思われる。その心が病み始めた時期が上海旅行の後からなのだ。
そういったことを背景に、芥川の心が病んだ“火種”となったであろう、当時の動乱の中国を確かな史観で描くことで、現代の世界情勢の中心にある近代中国のルーツを改めて見つめ直すきっかけとなるメッセージ性が感じられる。
作品としては、芥川の小説世界と動乱期の中国の現実を交錯させながら、日中の精神的交流を発信するもの。大作家でありながら“ストレンジャー”として中国の理想と現実のギャップに衝撃を受ける芥川の姿は視聴者の共感を呼び、同じ視点で当時の中国の精神世界に触れることができ、これまでにないドラマの方向性を見出したものになっている。
ほぼ全編を上海で撮影した現実感の漂う作品の世界と松田龍平演じる芥川の心の機微に触れながら、芥川と同じ“ストレンジャー”として20世紀史に刻まれた魂の交流を感じてみてほしい。
文=原田健