放送中の大河ドラマ「真田丸」(NHK総合ほか)。天下統一を果たし、栄華を極める豊臣秀吉(小日向文世)だが、世継ぎの早世や関白・秀次(新納慎也)の自死などが暗い影を落とす。そんな中、老いた秀吉に次第に“死”が近づいてくる。
かつてないキャラクターと話題の秀吉役・小日向文世を直撃。クランクアップを間近に控えた心境や、秀吉の周囲の人々への思いを語ってもらった。
――クランクアップを前に、現在の率直な感想をお聞かせください。
率直に楽しかったです。これだけ喜怒哀楽のはっきりした役なので、ストレスがなかったです。両極の感情が行ったり来たりする役というのは役者の醍醐味(だいごみ)ですから、今回の秀吉役は役者冥利(みょうり)に尽きるものだったと思います。
――秀吉の老いていく姿を見るのが新鮮に感じましたが、台本を読まれてどのような感想をお持ちになりましたか?
秀吉の死因はいろいろと言われていますが、三谷(幸喜)さんは老人性認知症の症状がだんだんとひどくなっていく様子をじっくりと描いています。秀次が死んだ辺りから精神的に不安定になって、天下を極めた男の最期を、ある意味徹底して、ぶざまに描いていることに驚きました。
――秀吉の人生をあらためて振り返ると、どのような印象がありますか?
僕は、藤吉郎時代からは生きていないのですが、人間の欲の深さというか業というのか、秀吉は見事にそういったものを感じさせる人だったように思います。
天下を統一してもいつも満たされない部分があって、結局それはずっとできなかった子供ができたことによって、さらに欲が出てきたということでしょうね。それと同時に、子供の生きる未来に、家康(内野聖陽)の影がちらつくようにもなったのだと思います。
武士になっていなければもっと穏やかに老後は過ごせたけど、おいしいものも食べられなかったでしょうし、この人のことだから、それはそれでじだんだ踏むような歯がゆい思いがあったかもしれません。でも、これだけきれいな着物を着て、周りがかしずいても常に満たされていない、というのが秀吉という男なんですよね。
――家康の影がちらつくというのは、具体的には何がそう思わせたのでしょうか?
秀吉も天下統一を果たした人なので感覚が鋭かったはずで、そうそうたる大名たちを見ている中で、ちょっと家康だけは別格に思ったんじゃないかと思います。だからこそ、何とかして家康を京から離して江戸に追い払おうとか、上杉景勝(遠藤憲一)を会津に置いて見張らせようとか、常に意識しているんですよね。
「きっと、こいつは後からズズズっと出てくるぞ」という勘が働いていたんでしょう。家康の目の前で昌幸(草刈正雄)に「徳川の与力をやめていいぞ」と言ったりもしますし、常に邪険にするようなところがあると思います。
――のちにその家康と争う三成(山本耕史)のことはどのように見ていましたか?
三成には豊臣家を託している部分がありますから、「自分が目の黒いうちは一生懸命たたき上げなければいけない」という思いがあります。だから、源次郎(信繁)を見る目とは少し違って、「豊臣家のためにしっかりしろよ」という目線になる。
やがて、自分の死期を悟った秀吉は、“家康を殺さないと、豊臣家が危ない”と考えて、他でもない三成に「家康を殺せ」と言い残すんです。
――では、秀吉の信繁(堺雅人)への思いはどのようなものだったのでしょうか?
秀吉にとっては、かわいかったでしょうね。信繁と出会った当時の秀吉は子供がいなかったですし、打てば響く、頭の回転のいい若者ということで、自分の若いころに重ねていたかもしれません。人質みたいな形でやってきたけど、秀吉の下で勉強しようとして最後まで付いていこうと考える、とても情に厚い男だなと思います。
――普段は陽気でありながら、ひとたび怒ると“怖い”と評判だった秀吉ですが、その怖さの要因はどこにあったのでしょうか?
自分の欲を満たそうとするときに、その障害になるものへのいら立ちですかね。天下を取ってからは、特にどんな小さなことでも我慢しない人になったんでしょう。多分、昔からイラッとしやすくて顔に出る人だったんだと思います。でも一方で自分の欲が満たされていればニコニコしている、そういう意味では子供のような人だと思います。
あとは、人が何を考えているか見抜く目が優れているのかもしれません。“人たらし”と呼ばれたのも、恐らくそれが理由で、見抜かれていると思った人には怖いかもしれません。
――「笑顔でいても目が笑っていない」という声がよく聞かれましたが、意識されたことはありますか?
目が笑っていないと書かれるけど、笑っているつもりなんですよね(笑)。でもそういうふうに捉えてもらえるのは、秀吉の裏の部分を視聴者が知っていて、勝手に想像してくれるからで、三谷さんの本の力なんだと思います。
あとは、元々穏やかな役が多かったので、そのギャップで“怒り”の表情が伝わりやすいということですかね。劇団時代に、少年のように心を解放させる訓練をずっとさせられたのですが、そんな“子供のような無邪気さ”から一気に“残虐”な顔を見せると、視聴者にはその落差がものすごく大きく感じたのかもしれません。
実は「大河でこんなにはしゃいでよかったのかな」と不安に思うこともあったんですが、三谷さんからイメージ通りと言われたので安心しました。
――これまで演じた中で印象に残っている場面はありますか?
たくさんありますね。でも、最初に登場するときに、びょうぶの陰に隠れて源次郎と会うのですが、老いて衰えた後に同じようなシーンがあって。秀吉が伏せっている中、そばに控えている源次郎が少しうとうととするのですが、気付くと秀吉が脇に立っていて、最初に会った時と同じように「面白いところへ行くぞ」と言うんです。あれは印象的で、三谷さんはいいシーンを書いてくれたなと思いました。でも、怒りに身を任せているところも含めて、毎回すごくいいシーンをいただきましたけどね。
――秀吉という強烈なキャラクターを演じながら、民放のドラマにも掛け持ちで出演されて忙しくされていたと思いますが、撮影期間を振り返っていかがですか?
楽しかったですよ。僕は「休みができたら海外に行こう、ゴルフに行こう」といったことを一切思わないんです。趣味がないので、休みがあっても一歩も外に出ないんです。次の台本を読んでせりふを入れて、どんなシーンになるか想像する。本当にそれだけです。
だから、ドラマの仕事が二つ入っていても楽しかったですね。ただ、「これだけインパクトのある役をやっておきながら、なぜ他のドラマに出るんだ。『真田丸』に集中しろ」と番組ファンの方から思われていたらどうしよう…とは思います(笑)。
もう少し仕事量を減らして、めったに出ない俳優がたまに出てくるというパターンもかっこいいかなと思いますが、終わってしまうと暇になるので、それが耐えられないんですよね。
――最後に、秀吉が家康の影を常に感じるように、「真田丸」のキャストで意識された方はいらっしゃいましたか?
皆さん僕にないものを持っています。堺君の知的なせりふ回しとか、草刈さんの格好良さとか…。僕は、仮想大会の回(7月3日放送)で草刈さんと同じ“瓜売り”をやったのですが、あまりに違っていて、草刈さんに写真を撮らせてもらったくらいです。何やっても格好いいんですよね。
ただ、僕の個性を生かすには僕が面白がって夢中で演じることなので、どうやってその状態を見つけ出すかに集中します。でも、今回の真田丸は本の段階から面白がってできたので、良かったなと思います。あっという間の撮影期間でした。
大河ドラマ「真田丸」第30回は7月31日(日)夜7時15分から放送。
毎週日曜夜8:00-8:45ほか
NHK総合ほかにて放送中
※7月31日(日)は夜7:15-8:00ほかに放送