映画ファンを魅了した事象に贈られる「特別賞」も2作品に贈られた。
まずは、城定秀夫監督監督の「アルプススタンドのはしの方」。監督の他に、キャストの小野莉奈、西本まりん、中村守里、目次立樹、平井亜門が登壇した。
城定監督は「代表して立派なトロフィーを頂きましたが、これは一緒に作った素晴らしいキャスト、スタッフ、手弁当で参加してくれたエキストラの皆さんのおかげです」と喜びを表現。
どんな題材も上手に料理して映画にしていく“天才料理人”と紹介されると、城定監督は「天才料理人というのは誰が言ったのか分からないんですけど(笑)、この作品は原作となった戯作に感動したというのがありまして、料理に例えるなら、自分の味を押し付けるのではなく、素の状態で、なるべくいいものを差し出したいなという思いで作りました」と本作の“調理法”を明かした。
「大きい作品はないんですけど、中ぐらいの作品とかいろいろ準備はしております。天才料理人の名に恥じぬよう頑張っていきたいと思います」と、次回作への期待を感じさせた。
もう一つは、岩井澤健治監督のアニメーション映画「音楽」。男子高校生たちが音楽の魅力に目覚める様を、繊細かつ膨大な線の動きと音楽のシンクロによってエモーショナルに仕上げられている。
実写を先に撮影し、それをアニメーション化していくという手法がとられているが、「先に実写を撮影するので動きが先にあるので普通に作るより楽にできるんです。長編アニメーションを個人制作で作るには工夫が必要で、その一つが実写を先に撮るロトスコープという手法だったんです。
これだったら7年掛かるけども劇場アニメーションができるかなって」と、さらっと言っていたが、7年の年月をかけた渾身(こんしん)の作品となっている。
「今後も個人制作で作っていくんですけど、作家性の強い作品がどんどん出てくればいいなって思います。予定はないんですけど、7年も作ってるから“めんどくさいヤツ”って思われているので仕事のオファーはないので(笑)、また個人的に企画して作っていきたいです」と今後もマイペースで制作を続けると話した。
そして「最優秀新進監督賞」は、本年度最も飛躍した監督、もしくは顕著な活躍をした新人監督に贈られる賞で、今回は「君が世界のはじまり」のふくだももこ監督、「37セカンズ」のHIKARI監督が受賞した。
ふくだ監督はリモートで参加する予定だったが急きょ会場に駆け付け、「映画界、演劇界、音楽界、全部を担っていくであろう若い俳優たちと仕事をさせてもらえてよかったです」と受賞の喜びを。
続けて、今後の抱負を聞かれると、先日子どもを出産したばかりのふくだ監督は「子どもを産んだ理由の一番は、子どもに会いたかったからなんですけど、映画業界、映像業界に出産や育児をしているスタッフが働きやすくなるように保育部というのを作りたいと思っています。監督に子どもがいることは結構な圧力になるんじゃないかと考えて(笑)、みんな切実に考えてくれるんやないかと思います」と環境改善を目指すことを語った。
一方、HIKARI監督はリモートで参加。手掛けた「37セカンズ」は、産まれた時に37秒間呼吸が止まっていたことによって脳性麻痺になった女性が自身の人生を輝かせようとする姿が描かれた作品。
「(主人公・ユマを演じた)佳山明さんと出会えたことで、この映画がさらにすてきな作品になれたと心から感謝しています」と感謝と喜びを表現した。
そして「監督だけじゃなく、クリエーター、プロデューサーとしてもたくさんの方々と一緒に、この世界が平和になるような作品をどんどん手掛けていきたいと思います」と、いろんなことに挑戦していくことを明言した。
◆取材・文・撮影=田中隆信