「小説っぽいじゃん」なんて、こそばゆい気持ちになりました
――冒頭に描かれたお父さんの破天荒ぶりからして強烈ですね。
コントと一緒でつかみは大事にしないとって思って、書き出しは緊張しましたね。どんな書き方をしても、どれも正解じゃない気がしちゃって。いろいろ考えた結果、親父のキャラクターがよく分かるあのシーンから始めるのがいいのかなって思いました。
――ご自身で書かれていて、印象的なシーンはありますか?
花火大会のシーンはすごく印象に残ってますね。実際に地元のお祭りがあって、僕の家から花火が見えたんですよ。あの光景はどこかに入れたいなって思ってたんですけど、自分でも「なんか小説っぽいじゃん」なんて、こそばゆい気持ちになりました(笑)。小説を書いてるんだっていう感覚になり始めたシーンですね。
――コントの台本と小説とでは、全く書き方が違いますよね。
表現の違いの難しさはありましたね。コントなら1秒で済むことも、小説では何行も使ってしっかり伝えないといけなかったり。自分で1冊書き終わってから、人の小説を読むのが一段と楽しくなりました。「こんなふうに書くんだー。すごいなー」なんて。
――お父さんからバースデープレゼントをもらうシーンの二転三転を読んで、かが屋さんのBluetoothイヤホンのコントを思い浮かべました。
あー、ご存じでいらしてうれしいです。小説の方はコントみたいに、あんなハッピーエンドじゃないですけどね。あそこは親父にどんなふうに暴れてもらうかだけ考えて書きました。
――実際のご両親も離婚されていて、お父さんとはもう会われていないんですか?
そうですね。でも、以前に連絡があったときは、僕が芸人になったことを知ってくれてて。「俺が翔の父親だっていうことは誰にも言ってないから、安心してくれ」って言われました。再婚した奥さんや娘さんには迷惑をかけたくないし、内緒にしてくれてるおかげで今回の小説が出せた感じですね(笑)。
小説の主人公の草野が芸人になったとき、父親に「小説家をやってる」って言うシーンがありますけど、僕も実際にそう言ってたんですよ。うそが本当になったな、なんてしみじみと思いました。