「主人公が必ず恋愛することに違和感があった」ドラマ「恋せぬふたり」制作陣が語る多様性の描き方
「チェリまほ」きっかけで脚本家へオファー
――今回、キャスティングも重要だったのではないかと思います。なぜ岸井ゆきのさんと高橋一生さんが演じることになったのでしょうか。
押田 高橋さんに関しては、脚本の吉田恵里香さんの中にイメージがあり、オファーをしたところ快く受けてくださいました。岸井さんに関しては、正式なオファーの前に一度お会いする機会を設けていただきました。そのときに台本の一部を読んでもらおうとしていたんですが、岸井さんは、まだテーマについて深く理解していないのに、本読みをするのはちょっと難しいとおっしゃって。それを聞いて、すごく誠実に役に向き合おうとする方だなと感じました。それと、咲子という役は、明るい中にもどこか本音を隠して生きてきているというところがあって、そういう周りに合わせて生活している人物を、岸井さんなら繊細に演じてくれるんじゃないかと思ったんです。
――脚本の吉田さんが決まった経緯についても教えてください。
押田 吉田さんが脚本を手掛けられた「30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい」(テレビ東京系)という作品の中で、佐藤玲さんが演じられた役が(原作と違い)恋愛をしてもしなくてもいいと思っているキャラクターになっているんですが、そういう設定にしたのが吉田さんだということをインタビューを読んで知って、お話を伺ってみたいと思いました。ドラマを作る上では、アロマンティック・アセクシュアルというテーマはあっても、それをはっきりと描かないということもあり得ましたが、吉田さんはアロマンティック・アセクシュアルに真正面から向き合っていきたいとおっしゃってくれました。吉田さんとなら「恋せぬふたり」をつくることができると思い、ご一緒させていただくことになりました。
――撮影に入ってから、岸井さんや高橋さんは、どのように役に取り組まれていましたか?
押田 今回、当事者を含む3名の方に考証をお願いして、事前に岸井さん高橋さんに会ってお話をしてもらいました。最初のうち岸井さんが、アセクシュアルという言葉は知っていたけれど、恋愛がわからないという感覚を理解するのが難しいということだったので、岸井さんがお気に入りの映画だという「アベンジャーズ」に例えて、当事者の方が「『アべンジャーズ』をよく知っていて、そのことで話が盛り上がっている人たちの中に、まったく知らない人が混じっているような感覚を、周囲が恋愛の話をしているときに感じる」という話をされていて、そういう居場所のなさや、いたたまれない感覚について、話し合って理解を深めていました。
高橋さんが演じる羽については、接触に嫌悪感があるというキャラクターなので、その感覚の出し方をかなり考えられていましたね。あんまりやりすぎると人が嫌いというニュアンスが出てしまうので、距離感の微妙なバランス、どこまでなら不快な印象を与えずに嫌悪していることを表現できるかを、事前にリハーサルをしてつめていったところがありました。脚本も演出も当事者ではない人間が関わっているので、動きやセリフの一個一個、こうなるとこの動きが難しいんじゃないかとか、丁寧に繊細に、考証の方と相談しながら、かなり試行錯誤を繰り返されていました。
番組情報
NHK よるドラ「恋せぬふたり」1月10日(月)放送スタート
毎週月曜日 夜10時45分~11時15分 <全8回>
【出演】 岸井ゆきの 高橋一生 /
濱正悟 小島藤子 菊池亜希子 北香那
アベラヒデノブ 西田尚美 小市慢太郎
公式サイト
TCエンタテインメント