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コロナ禍における舞台オンライン配信の劇的進化、メタバース(仮想空間)を見据えた新たな観劇体験とは

2022/01/21 20:30

体験型公演「イマーシブシアター」にトレンドの兆し、「オンラインでしか成立しない」観劇体験とは

お台場・ヴィーナスフォートの常設イマーシブシアター「Venus of TOKYO」
お台場・ヴィーナスフォートの常設イマーシブシアター「Venus of TOKYO」 (C)DAZZLE


更にオンラインの強みである双方向性を生かし、「配信でしか味わえない観劇体験」を生み出していく公演もみられる。そのひとつが「オンラインイマーシブシアター」だ。「イマーシブシアター」とは「体験型公演」とも呼ばれ、観客は着席して観劇するのではなく、会場内を自由に歩き回り、自ら選んでパフォーマンスを見て回る。このように物語の中に没入して観劇するスタイルの公演を、オンラインに場を移して開催する試みが生まれている。

国内イマーシブシアターのパイオニアであり、ミュージカル「刀剣乱舞」の振付などでも知られるダンスカンパニー「DAZZLE」は、2020年5月に初のオンラインイマーシブシアター「Labyrinth東京C」を上演した。これはYouTubeで動画を公開し、視聴者がリアルタイムにコメント欄で2択の選択肢を選び、「good」が多かった側の選択肢に続くストーリーの動画が公開されていくという仕組みだった。メンバーの飯塚浩一郎氏によると、本作は「オンラインでなければ成立しない」ことを前提に制作されたという。「デジタルのメリットのひとつは拡散性の高さなので、『Labyrinth東京C』の場合は、同時に多くの方が参加できるよう、無料で登録不要のYouTubeを利用しました。そして重要なのは、視聴者の投票により物語が変わるという部分です」視聴者の選択によっては見られないシーンが生まれたり、登場人物が死んだりといったことも起こる。リアルのイマーシブシアター同様、「選択する」ことの重みが意識される仕組みだ。また新たな視聴体験を作るため、全編主観映像で配信。動くカメラに対してダンサーがアクションする形はダンスの見え方としても新鮮な表現となり、視聴者は各回延べ数千人を超えた。


この取り組みに手応えを得て、続く2021年春にはVRイマーシブシアター「夜想百物語」を配信。360°視界の映像を配信できるマルチアングル配信サービス「REALIVE360」を利用し、現実のイマーシブシアターの「体験」価値に近いものを提供しようとした挑戦だった。「通常の映像作品は正面の視界のみですが、視界が360°になることによって、自分の背後・死角で何かが起きているという新たな視聴体験が生まれました。また、百物語というテーマにしたことで語りや環境音を耳元で感じられ、より没入できるという感想もいただきました」(DAZZLE・飯塚浩一郎氏)。最先端技術ゆえの不安定さやコストの高さ、システム導入のハードルもあったが、逆に先行作品が少なかったため、自身で海外VR作品のYouTube動画などを見て研究し、緻密で自由度の高い作品を作ることができたという。

メタバース(仮想空間)も見据えた進化が進む、配信演劇の未来は明るい


現在DAZZLEはお台場・ヴィーナスフォートにて、常設イマーシブシアター「Venus of TOKYO」を上演中だ。「秘密のオークションが行われる高級クラブ」を舞台とし、観客が自由に会場内を歩き回って観劇できる本公演は、有観客で開催しながら毎日オンライン配信も実施している。「監視者」と呼ばれるカメラマンに対し、オンライン視聴者がTwitterのアンケート機能を利用して行動の指示を出すことで、自分が現地にいるかのようなリアリティを感じられる仕組みだ。

「Venus of TOKYO」配信視聴者はTwitterアンケート機能を利用してカメラマンに行動指示を出す
「Venus of TOKYO」配信視聴者はTwitterアンケート機能を利用してカメラマンに行動指示を出す (C)DAZZLE


「『自分の意思によって物語を変える』という興奮と緊張感は、他のエンターテイメントにはないイマーシブシアターの大きな武器です。オンラインでつながっている方々にこちらからの選択肢を伝える、投票結果をすぐに集計し行動に反映する、というスピード感を実現するためには、広く一般的なツールである必要もあり、Twiitterを使うことにしました。世界中どこからでも参加できるだけでなく、オンラインコンテンツ自体を広めるという面でも、TwitterというSNSを使う意味があると思います」視聴者の没入感を高めるため、カメラはワンカットの主観映像としているが、1台のカメラが会場内を広く移動することは有線では不可能。しかしリアルタイムの映像配信は高速回線でないと行えない。そこでモバイル回線を複数束ねて一つの高速回線にするという技術を導入し、安定的な配信を実現したという。

舞台の作り手から見たオンライン配信の難しさについて尋ねると、「配信にはオンラインであることの意味を持った企画性が必要になってくる、そのために作品自体が配信を前提として設計されていくようになるのかなと思います。メタバース(現実世界とは異なる3次元の仮想空間)などの利用が当たり前になれば、リアルとオンラインの境目はどんどん曖昧になっていくので」と飯塚氏は語った。

他にも、2.5次元舞台などで活躍する俳優・北川尚弥主演で昨年末上演されたオンライン演劇「アウフヘーベンの牢獄」も、観客がLINEのオープンチャットを使い、キャストと対話したり謎を解くことでストーリーが進んでいくという「イマーシブミステリー」だった。リアルタイムで演者の反応の変化やストーリー分岐が生じるため、生の演劇であり、単なる映像の視聴とは異なる体験になっている。また「リアル脱出ゲーム」企画運営のSCRAPが手掛けるオンライン演劇「インサイドシアター」シリーズなど、こういった視聴者参加型の「オンラインイマーシブシアター」は各所で開催され、人気を集めている。オンラインの双方向性を生かして観客が作品の中に入り込む。これは配信の浸透によって生じた新たな観劇体験の在り方と言えるだろう。

再度感染者数が増加しつつあり、世界がすぐにコロナ以前と同様の状況に戻ることは難しい状況といえる。しかしそんな中でも、様々な工夫や改善によってエンタメを届け続ける人々に賛辞を送りつつ、今後の更なる進化を楽しみにしていきたい。

この記事はWEBザテレビジョン編集部が制作しています。

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2.5次元舞台や俳優に関するポータルサイト「ニコメン」
https://site.nicovideo.jp/25nicomen/

「Venus of TOKYO」

日本初の常設イマーシブシアター
2022年3月末までお台場ヴィーナスフォートにて毎日3公演上演中
https://venus-of-tokyo.com/

画像一覧
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