“お金を生む仕組み”の発想法「他の業界を見たらすぐにわかること」
――番組のDVD化や有料イベントの開催など、佐久間さんは番組を終わらせないためにマネタイズ施策に注力している印象があります。そういった「お金を生む仕組み」はどのように案出しているのでしょうか。
テレビ業界にいてテレビ業界のゲームだけで戦っていたら気付かないですけど、他の業界を見たらすぐにわかることなんです。たとえば、音楽業界で起きたことなんて、4~5年後には映像業界でも起きていますし。一時期のテレビ業界人って「俺たちがナンバーワンだ」と過信していて、自分たちの中での戦いに終始していたんですよ。でも、僕は幸いにも自分に自信がなく、それにテレビ東京というちょっと外れた会社に籍を置いていたから、色々なものに目を向けることができた。その結果、「こうしないと番組は続かないよな」と気づき、その考えを行動に移しただけなんです。だから、先見の明があるというわけではないと思います。
――面白いものを自由に発想することと、マーケティングの手法で世に展開していくことは相反することだと思うのですが、その点をうまく両立させるコツなどあれば教えてください。
僕は右脳と左脳のイメージがあって。右脳で企画のことをめちゃくちゃ考えて、一方の左脳ではいわゆるマーケティング的な視点からギチギチにアイデアの方向性を縛っていく。結局、何らかの制約があったほうがアイデアって出やすいんですよ。でもマーケティングだけで作っていくと大体、どこかで見たような魂の入っていない番組になってしまう。根っこの部分に自分が面白いと思ったものがないと他と違うものにはならないし、長続きもしないと思うんですよね。
――面白いものを突き詰めていった結果、オリジナリティーが生まれると。
そうですね。僕はよく「発明」と言っていて。どんなに小っちゃいことでもいいから、番組作りにおいては発明をするべきだと考えているんです。それは自己紹介のやり方でもいいし、ある特定のタレントさんの扱い方、テロップの入れ方でもいいと思います。
佐久間宣行が語るテレビ業界の現状「1個の指標だけで測るのは限界がある」
――一方で、「発明」が生まれにくい閉塞感が今のテレビ業界にはあると思いますが、そのあたりについてどのようにお考えですか。
テレビに新しいものが生まれにくい一番の原因は、世帯視聴率を唯一の指標とする期間が長過ぎたことだと思うんです。ちょっと前までのテレビって高齢化社会に対応するあまり、情報番組ばかりになってましたよね。そのせいで、10年近く発明癖がついていないだけだと考えています。
やはり、何にしても、1個の指標だけで測るのは限界がある。テレビは1個の指標しかゲームを戦う指標を持たなかったから、長年、19時に家のテレビの前にいる人に向けた番組作りを強いられていたわけです。でも、ここから先は色々な指標がたくさん出てくるだろうし、テレビ局のクリエイターはみんな優秀だから、もっと面白い番組がポンポン生まれてくるんじゃないかな。
――その意味で、佐久間さんは先ほども話に上がった番組のDVD化や有料イベントの開催などで、新しい指標を作ったわけですね。
そうそう。僕はテレビの既存のゲーム理論に乗ることが得意じゃなかったので、自分が勝てる指標を持ってきて早めに勝負したんです。例えるなら、花見の場所取りが上手かっただけ。ほとんどのテレビマンが大きな評価を得たくて、ゴールデン帯の番組を手掛けたいと思うものですが、僕は向いてないし全然興味がなかったんです。それよりも、自分のやりたいことをやるために指標を引っ張り出して結果を出し、楽しく20年ぐらい好きなものを作ってきたんです。
――佐久間さんはフリーになられて幅広い仕事を受けています。仕事を引き受ける上で何か基準はあるのでしょうか。
これは全然わかんないです。今20代に戻った気持ちでやっているんですよ。20代の頃は自分の得意分野がわからなかったから、一時期、ADの仕事でもディレクターの仕事でもすべて引き受けていたんです。その中で、向いている仕事を探していき、フロアディレクターに異常に向いていることに気付いたわけで。今40代半ばでフリーになって、20代の頃と同じ状態だと思うんです。だから、いただいた仕事はスケジュールさえ合えば何でも受けているという感じですね。
文=こじへい