メジャーデビュー20周年という大きな節目を迎えた森山直太朗。時代が変化し音楽の届け方や楽曲の方向性も変わり続ける中で、今も人の心に寄り添う普遍的な楽曲を歌い続けている。そんな森山直太朗にこれまでのキャリアを振り返りながら、ドラマ「家庭教師のトラコ」 (毎週水曜夜10:00-11:00、日本テレビ系)の主題歌となっている新曲『茜』の制作秘話、全国100本にも及ぶ20thアニバーサリーツアー、アーティスト活動を左右した転換期について思いの丈を語ってもらった。
7年温めた楽曲がドラマ主題歌に、「楽曲の世界を突き詰めていった先で、ドラマ作品と触れ合う瞬間がある」
――日本テレビ系で放送中の連続ドラマ「家庭教師のトラコ」の主題歌「茜」は、すごく優しい歌詞とメロディーで、森山さんならではの楽曲と感じました。どういう思いでこの曲を製作されたのでしょうか。
実は、7年ぐらい前に『茜』の曲のフレーズがすでに自分の中にあったんです。その後に『あの城』という劇場公演を行ったのですが、『茜』が物語の景色に合ったので『あの城』の制作タイミングで作りました。ただ、そのときはシングルなどでのリリースはせず、そのまま自分の心の引き出しの奥にしまい込んで、いつかリリースできたらいいなと思っていました。
月日が流れて、今夏放送されている『家庭教師のトラコ』の大平プロデューサーと脚本・原作の遊川和彦さんから主題歌のオファーをいただいて、この曲がフィットするのではないかとご提案したら、とても喜んでいただけました。そこから、今の自分のフィルターを通して、“大切な人に思いを馳せる普遍的で壮大なロストバラード”に仕上がっていきました。
――ドラマの主題歌にはいろんなパターンがあって、ドラマの世界観に合わせた作り方をしている楽曲もあると思います。ドラマ「家庭教師のトラコ」に合わせていくような作業はあったんでしょうか。
それができていたら僕もきっと、職業作家としてもっと活躍しているんじゃないかな(笑)。今回、遊川さんがオリジナルの脚本を作られていて、僕自身もシンパシーを感じてこの曲と向き合いきることがすごく大事で。この曲のアイデンティティーや、原風景みたいなものを大切にしながら作りました。ある意味、遊川さんも身を削って命がけで作っているものだから、僕たちの計算には及ばないところで、曲が触れ合う瞬間があるんじゃないかと。いつもそんな思いです。例えば、AIちゃんに書き下ろした『アルデバラン』という曲も、朝ドラの主題歌に結果的になったんですけど、朝ドラのことは知らないまま作っていました。だけど、振りきった先に作品とも触れ合える瞬間があると信じているので、あえてドラマに寄せるなどはあまり考えずに作っています。
――今回は『家庭教師のトラコ』ですけども、歌詞を聞いていくと、恋人、家族、子ども、友達など自分の大切な人に当てはまる楽曲という印象を受けました。どういうインスピレーションであの歌詞を書かれたのですか?
曲を作るときに、自然に生まれてきたフレーズをすごく大事にしています。例えば、僕の『夏の終わり』という曲があって、「夏の終わり 夏の終わりには ただ貴方に会いたくなるの」という、そのフレーズから物語が始まるんです。ここから肉付けしていき、この曲の主人公はきっと女性だな、この時代に生きていた人だなと自分なりに脚色して、色を付けていくんです。
今回も、「何より大切なもの」「茜 茜色に染まるあの空」このフレーズが強い情景を持って生まれてきたので、ここに対して自分の感覚、ノスタルジー、自分のイメージをすり合わせて物語を作っていきました。結果的に、自分にとって、身をもって生き方や大切なものを教えてくれた人。あるいはモノとか、それがペットでもいい。誰にでもいる大切な存在だけれども、ここにはいない人。もう二度と会えないかもしれない。そういう人ほど心の中に強く残り続ける。この曲の持っている普遍的な、“誰もが心の中にいる存在”を思い浮かべながら描きましたね。
活動20年は…、「20年続けてきてしまった」「音楽人としてようやく成人」
――2021年にシングル『さくら(二〇二〇合唱)/最悪な春』、今年3月には20周年を記念したオリジナルアルバム「素晴らしい世界」、そして今回「茜」が配信シングルでリリースされましたが、この期間は森山さんにとってどんな期間だったんでしょうか。
去年の10月から20周年のアニバーサリーイヤーが始まって、『素晴らしい世界』というアルバムをリリースし、そしてそれをひっさげてのツアーに突入した時期でもありました。
ツアーは、今年6月から始まったばかりですが、約1年半かけて全国100本回って内容は割と振りきったコンセプトのツアーになっています。
昨年8月に新型コロナウィルスに罹患したことが、アーティスト活動や生活、日常、何なら人生という部分で、考え方が変わる経験となりました。今までだったら普段何気ない日常の生活の中で感じていたことが、本当に尊く、小さな奇跡の積み重ねなんだなという。当たり前じゃないことを知れたのは、かけがえがのない財産となっています。
――20年の活動の記念でツアーを100本行う中で、前篇・中篇・後篇で形式を変えていますが、どんな狙いがあったのでしょうか。
長きにわたってツアーをやることを前々からやってみたいなと、自分の表現の幅を有効に使っていきたいなというのがあって。だから、バンドだけのツアーもしたくないし、弾き語りオンリーっていうコンセプトにもとどまりたくない。いい意味でいろんなチャンネルがあるので、その部分を自分なりに、能動的な感覚で作り上げていきたい。
100本やりきるっていうよりも、その3つのツアーを駆け抜けたら結果的に100本になったというイメージですね。それと自分が飽きないため、あるいはスタッフ同士で緊張感を保ち続けるためにも、3つの季節(前篇:弾き語り、中篇:ブルーグラス、後篇:フルバンド)に分けたほうがやりがいがあるんじゃないかなと思って、そういう形になりました。
――まだ始まったばかりなので、お体に気を付けて完走していただきたいと思います。その中で、アーティストとして20年間、世の中に歌を届けるお仕事を続けられてきたモチベーションや原動力をご自身でどう捉えていますか?
エンタメの世界で表現活動を20年やることは、それなりのことだと、僕も他の方を見ると思います。だけど、心のどこかで自分としては、「20年長くやってきてしまった」そういう恥ずかしい感覚もあったりして。それしかできない自分に引け目みたいなのが正直あったりするんです。
でも、自分のモチベーションとしてあるのは、音楽、お芝居といろんな表現があると思うんですけれども、“舞台表現”というものに著しく興味があるんです。それが、たまたま音楽だったり、時として演劇だったり。そこが自分の中で好きな限り、この先もずっと続いていくと思います。
それと自分の母親や、母親の周りにいる先人の歌い手、共演者の方の背中を見ているので。長く続けていくことはとても難しいことで、ある意味で幸せなことでもあるし。そういう人たちの動向をうかがいながら……。結果的に、その情熱を持ったまま死ねたらいいなというのが理想なんです。
20年は、音楽人としてはようやく成人になった気持ちです。これからどう、目の前の人や世界の人に自分が役に立てるのか。ようやく自分の中で考え始めたという、そんな季節に差しかかってます。
森⼭直太朗INFORMATION
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