30代で深みを帯びたリアリティ溢れる演技
20代の頃は脳裏に焼きつく印象的な役柄を演じることが多かった上野。しかし、30代に突入して以降は、朝顔のように等身大の女性を演じることが増える。それに伴って、より繊細でナチュラルな演技が光るようになった。
「グッド・ドクター」(フジテレビ系、2018年)では、自閉症でサヴァン症候群の小児科レジデント・新堂湊(山崎賢人)を支える指導医の瀬戸夏美役に。第1話の完成披露試写会と舞台挨拶で上野本人が語っているように、夏美は生い立ちに何か特別なものがあるわけではない、至って普通の真面目な医者だ。だが、個性的な新堂に葛藤しながらも寄り添う“受け”の演技でかつてない輝きを放った。
竹内涼真演じる主人公・田村心が、タイムスリップした過去で無差別殺人事件の謎を追う姿を描く「テセウスの船」(TBS系、2020年)にも特別出演という形で参加。上野が演じた心の妻・由紀は物語の序盤で命を落としてしまうが、タイプスリップに伴い第4話から再登場。心の父が無実の罪を着せられた無差別殺人事件の被害者の集いで「真犯人がいるのでは」と必死で訴えかけるシーンが大きな反響を呼んだ。
そして、デビュー20年目を迎えた今年。「持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜」(TBS系、2022年)で、年々成熟度を増してきた主体性あふれる演技を見せた。上野が演じたのは、妻に先立たれた父(松重豊)と共に婚活を行うことになるヨガインストラクター・沢田杏花。仕事が楽しい盛りで結婚願望が薄い30代女性のリアルを地に足のついた表現で映し出し、同世代の女性からの支持が集まった。上野樹里は、憑依型のカメレオン女優。それは昔も今も変わっていないが、以前よりもさらに日常の風景との馴染みがいい。
9月26日に放送される「監察医 朝顔2022スペシャル」は第2シーズンの最終回から1年後の夏が舞台。朝顔が第2子・里美(中村千歳)を無事出産し、家族はより一層賑やかになった。一方で、平の認知症が日に日に悪化し、朝顔は思い悩む。そんな折、一家は岩手・陸前高田市を訪れることに。日常の愛おしさを実感し続けてきた朝顔がどんな選択をするのか、見届けたい。
■文/苫とり子