あざとさが一切ない自然なかわいさ
おそらく、「バイプレイヤーズ」は近年まで続く“おじさんブーム”にも影響を与えた作品のひとつなのではないだろうか。頑固で口うるさいといった、従来の敬遠されがちなおじさんのイメージを覆し、「かわいい」という新たな印象を与えた本作。同時に多くの人がドラマや映画を視聴する際、脇役にも目を光らせるきっかけをも作り出した。
以降、大森南朋が癒し系の家政夫を演じた「私の家政夫ナギサさん」(TBS系)や、眞島秀和がイケオジながらかわいいキャラクターに目がない主人公を演じた「おじさんはカワイイものがお好き。」(日本テレビ系)など、「ギャップのあるおじさん」がメインの役をはる作品が増加。松重もその一人で、2020年4月〜9月にかけて放送された「きょうの猫村さん」(テレビ東京系)では、なんと猫の役を演じた。
原作は累計発行部数340万部を誇る、ほしよりこの人気コミック。二足で歩き、人間の言葉を話せる主人公ならぬ“主猫公”の猫村ねこが、自分を拾ってくれた飼い主のぼっちゃんと再会を果たすため、お金を貯めるべく家政婦として働く姿を描いている。見た目が紛れもなく猫なので、実写化不可能と言われた作品だったが、松重がまさかの被り物で猫村を演じるというアイデアでドラマ化した。虫を捕まえようと猫パンチをかましたり、頭を撫でられて喉をゴロゴロと鳴らしたり、生態はまるで猫なのだが、作中でそれに対する説明は一切ない。にもかかわらず、不思議と違和感がなく作品世界に馴染んでいる。
そんな猫村さんをはじめ、「アンナチュラル」(TBS系)での不自然死究明研究所(UDIラボ)のお人好しな所長役や、「持続可能な恋ですか?〜父と娘の結婚行進曲〜」(同)での妻に先立たれ娘とともに婚活に勤しむ父親役など、松重が演じる役柄はどれもちょっと不器用で、視聴者から「かわいい」という声があがる。そこにもし「かわいく演じてやろう」というあざとさがあったら、視聴者は一気に興ざめしかねない。
しかし、松重は自分をかっこよく見せるために振る舞ったり、演技力をひけらかそうとしたりしない役者だ。どんな役にもスッと入り込んで、あるべき姿でそこにいる。そんな松重の肩の力を抜いた自然体の演技があってこそ、キャラクターの味が引き立つのだろう。脇役でも主役でもきらりと光る目が離せない魅力を、ぜひこの機会に堪能してほしい。
■文/苫とり子