ミステリーとしても面白い「探偵ロマンス」だが...
ーー「探偵ロマンス」はミステリーでもありますが、作家として、ジャンルとの相性はいかがでしたでしょうか?
ミステリーは読むのは大好きなのですが、作家としては比較的苦手な方です。
ただ、乱歩先生には登場人物の“心理的な部分での謎”もミステリーとして成り立つ、というところを教えていただいたように思うので、意識しています。
あとはミステリーをたくさん出されている知り合いの編集の方に相談しました。そうしたら、「ハウダニット(どのように犯行に及んだのか=How done it?)」と「ホワイダニット(なぜ犯行を行ったのか=Why dome it?)」の2人を出すとよくなる、と教えていただいて。なので、三郎は証拠を意識して考えるハウダニットの探偵、太郎は動機を考えるホワイダニットの探偵として作っています。
ーーあえてのアナログなアクションシーンも魅力的ですよね。
アクションシーンは、バッキバキのエグいのをやろうと思えばできたんだと思うんです。だけどやっぱり「活劇をやりたい」という思いが私達の中にはあったので、ではどういうふうにしたら活劇っぽくなるんだろう、と考えました。それこそ、「インディ・ジョーンズ」シリーズのような古い映画を研究していったのですが、そんな中で、逆にどこかコミカルな感じがないと三郎が嘘みたいになってしまうのではないか、と思い、今の形になりました。
実は、1番最初に作ったシーンは1話の、歓楽街の茶屋の2階で三郎と太郎がワーッとやり取りをして、窓から三郎が飛び降りるシーンだったんです。あれだけはやりたいと。飛び降りた三郎に対して太郎が「なんてじじいだ!」と言いますが、「探偵ロマンス」は「なんてじじいだ!」を楽しむドラマです。なので、ヒーローものと同じで、「なんてじじいだ!」は1話に1回出てきます。
それでも光を信じて歩んでいく太郎の物語
ーーセリフの中に「夢」という言葉が多出しますが、意図された部分はありますか?
まずは乱歩先生の「うつし世はゆめ、夜の夢こそまこと」という言葉が自分の中で大きなヒントになった、ということが1つあります。
そして、私はこの物語はくすぶっていた平井太郎という青年が探偵小説家になるまでの話、だと思っているんです。現代人にも通じるところがあると思いますが、情報や人の意思にまみれて生きているような時代で、「自分は作家になるんだ」「何者かになるんだ」と光を信じて歩んでいくっていうのは非常に難しいことだと思うんです。そんな太郎の話なので、「夢」はキーワードとしてたくさん出てきます。