プロレスを「ゴールのないマラソン」と例えてきた武藤敬司が、ついにそのゴールを迎えることになった。38年のキャリアの中でもっとも輝いていたのが、武藤自身も「全盛期」と語る1995年であることに異論はないだろう。
中でも、東京ドームでのvs高田延彦戦はその後のレスラー人生の分岐点となっている。新日本プロレスとUWFインターナショナルが全面対抗戦を開催し、武藤が高田を撃破したメインイベント。「平成プロレス最大の一戦」である。
武藤は自身の試合を「作品」と表現する。まさに「名作」ぞろいの1年を振り返っていく。
1995年の武藤はスランプから始まった
95年のプロレス界は大小20ほどの団体がしのぎを削る多団体時代にあった。業界の盟主、新日本プロレスのエースは“破壊王”橋本真也。創始者、アントニオ猪木の思想「ストロングスタイル」を色濃く体現する「強さ」「怖さ」を押し出したファイトで人気を集め、IWGP王者に君臨していた。
対して、武藤は同じ「闘魂三銃士」というくくりの中では、強さよりも「華」を打ち出した印象。「武藤のプロレスは軽い」と揶揄されることもあり、「天才」の名をほしいままにしながらもファンの心をつかめず、なかなかエースになれない現状が続いていた。
95年の幕開け1月4日の東京ドーム大会では、馳浩(現・石川県知事)とのタッグでリック＆スコットのスタイナーブラザーズとの日米頂上決戦を制し、IWGPタッグ王者を初防衛。幸先いいスタートを切ったが、2月3日札幌のIWGP王座挑戦者決定戦では、外国人エース“超竜”スコット・ノートンの圧倒的なパワーの前に完敗する。その後も格下相手への敗戦を重ね、ついには「リングに上がるのが怖い」と語り、無期限の長期欠場に追い込まれるほどのスランプになってしまう。
絶対王者・橋本真也を撃破！“武藤時代”が到来
ともかく、この年の新日本プロレスの意向は武藤推し。超ビッグイベントの5月3日福岡ドーム大会では、防衛回数9回を誇る難攻不落の王者、橋本への挑戦が決定する。実績が伴わずに優遇される武藤に対し、選手はもちろんファンからも批判的な声が多く寄せられていた。
そんな中で武藤は魅せた。橋本の切り札を完封し、何より勝利への執念、今までなかったひたむきなファイトがファンの胸を打った。ドラゴンスープレックスを仕掛けた際に、135㎏もの橋本の体重をもろに受け、前歯4本が真っ二つに割れ、他にも4本がダメになったという。そのアクシデントをものともせず、必殺技ムーンサルトプレス2連発で撃破した。試合後には颯爽と、「今日を機に新生・武藤敬司はバク進します！」と熱のこもったマイクアピールを決めた。
「5月3日にさ、新しい武藤敬司が生まれてさ、プロレスというキャンパスに武藤神話、武藤伝説を、いま描いている最中ですよ。」(『週刊プロレス』No.690)
まさに、武藤神話、武藤伝説の幕開けである。
2月21日(火)昼4:00～、ABEMA PPV ONLINE LIVEにて独占生中継
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