【テレビの開拓者たち / 石川淳一】目指すのは「作り手の気概が感じられる作品」
僕が生涯で一番好きなドラマは「鈴木先生」。あまりの出来の良さに泣けました
――最新映画「ミックス。」も、“ロマンティックコメディー”ということで笑いの要素も満載ですが、石川監督にとって、脚本家の古沢良太さんとの出会いも大きかったのでは?
「そうですね、『リーガルハイ』で初めて古沢さんの作品の演出を務めさせてもらって、それ以降、古沢さんのテレビ作品は半分以上やらせてもらってると思うんですが、『リーガルハイ』という作品が、自分の中でも大きな自信になったことは確かです。ただ、こと『リーガルハイ』に関して言えば、他の演出家がやったら、もっと面白くなったんじゃないかなと思うこともあるんですよ。古沢さんの作品の場合、基本的には台本ありきで、そこに遊びの部分を足したり、テンションの波を作っていったり、というのが僕の仕事なんですね。台本が圧倒的に面白いから、それにパワー負けしないように上乗せしていく作業なんですが、『リーガルハイ』だけは、もしかしたら古沢さんの思い描いていたものとは違うものを乗せてしまったんじゃないかと。その不安がいまだにあるんですよ、本人には怖くて聞けてないんですけど(笑)。その意味では、今度の『ミックス。』は比較的、古沢さんの意図するところと近いものになったんじゃないかと思ってるんですけれども」
――石川監督は、古沢さんの書く脚本のどういったところに魅力を感じてらっしゃるのでしょうか。
「抽象的な言い方になりますが、展開が、いわゆるテレビドラマの流れとは明らかに違うんです。初めて台本の初稿を読むときって、どんなにベテランの作家の方が書いたものでも、『これってどうなのかな?』と思う部分が少なからずあるんですけど、古沢さんの本は、そういう違和感はほとんど感じたことがない。だから打ち合わせも実にスムーズで、僕から言うことはほとんどないんです。でもその分、ハードルは高いですよね。これが面白くなくなったら自分のせいですから。
これはたまたまなんですけど、僕の生涯で一番好きなテレビドラマが、古沢さんが脚本の『鈴木先生』(2011年テレビ東京系)なんです。第1話を見終わったとき、あまりの出来の良さに泣いちゃったんですよ。基本的には泣けるストーリーではないんだけど、出来が良すぎて泣けてきたっていう。原作の漫画も知ってたんですが、とにかくドラマとしての仕上がりが素晴らしくて。その後、『リーガルハイ』で古沢さんと一緒に仕事ができたときは本当にうれしかったし、『デート』で長谷川博己さんとご一緒できたときも感慨深いものがありましたね」