【テレビの開拓者たち / 森 彬俊】編集長が自ら語る“ノイタミナらしさ”へのこだわり
「今だからこそ、この作品を制作する」という“登場感”は常に意識しています
――ノイタミナの編集長とは、具体的にはどのようなお仕事をされているのでしょうか。
「僕としては、編集長の最大の仕事は、みんなでディスカッションをして総意を汲み取っていくことだと思っています。もちろん、社内で上がってきた企画や外部から持ち込まれた企画に対して、『こうしたらいいんじゃないか』といったアドバイスはしますが、チームのみんなでノイタミナというブランドをよりよいものにしていく、その舵取りを僕がしている、という感じですね」
──ノイタミナでは、新作の制作が決まるたびに、いつも話題騒然となりますよね。他のテレビアニメと比べても、特に注目度が高い枠だと思うんですが、そのあたりは、編集長の森さんも意識されていますか?
「最近は、ファンの方々から『今回はノイタミナらしい作品だ』という言い方で評価していただくことも多いんですが、そういう言葉をいただけるのは、幸いにもノイタミナというブランドが、ある程度確立されていることの証しだと思うんです。でも逆に、『ノイタミナだから、こういう作品でなければダメだ』といった先入観は、ファンの方々には持っていただきたくないなと思っていて。送り手である僕ら自身、そういう考え方はしていませんから。“ノイタミナらしさ”とは何か、ということは追求しながらも、新作の企画を選定する際には、そういった固定観念に縛られないようにしたいなと。その上で、『今回の作品もノイタミナらしかった』と言っていただくのが一番の正解じゃないかと思うんですよ。
端的に言えば、『期待に応えて予想を裏切る』ということですよね。これは、全てのノイタミナ作品に当てはまる考え方だと思っています」
──作品を決める上で、「こういうテイストのものはやらない」というような線引きは全くないわけですね。
「ええ、基本的には何一つ決め事はありませんし、何でもありだと思っています。最初から自分たちで枠組みを設けてしまうと、その枠の中からしか作品が生まれない。やっぱり、新しいものとか面白いものって、枠からはみ出ることで生まれるものだと思うんです。
例えば企画会議でも、ともすれば“自分の好みのプレゼン大会”みたいなことになりがちなんですけど(笑)、僕はそれでもいいと思っていて。何が視聴者に受けるのかなんて、誰にも分かりませんからね。だって、『おそ松さん』(2015~2016年、2017年テレビ東京系)があそこまで大ヒットするなんて、誰も思っていなかったわけでしょう? 以前、上司がよく『分からないところにこそ成功がある』と言っていたんですが、今は僕にもその意味がよく分かる。枠組みを作るのではなく、むしろ僕の分からないものを積極的に取り入れていきたいですね。
今、テレビアニメは1クールに50本近く放送されていますが、正直、視聴者の方々も全部は見きれないと思うんですよ。そうなると、前評判だけで、『これは見ない』と決められてしまうことがある。アニメファンの言い方でいうと、“0話切り”ってやつですね(笑)。そんな状況の下で、その50本の中でも埋没しない、0話切りされない個性的な作品を発表していきたい、という思いは強くあって。それは必ずしもトガった作品を作りたい、という意味ではないんです。『今このタイミングだからこそ、この作品を制作する』という、言うなれば“登場感”。決め事はないと言いましたが、唯一心掛けていることがあるとすれば、“登場感”は常に意識しているところかもしれませんね」