美術の番組が作りたくて
――ところで、倉森さんは昔から美術に興味があったのですか？
大学では美術史を専攻していました。どちらかというと、絵の向こう側にある歴史が好きなんです。私自身は実際の制作は何もできないので、絵を描いたり、物を作ったりできる人に尊敬や憧れがありますね。
――好きな作品を挙げるなら…？
世界中で一番好きな絵は何かって聞かれたら、レオナルド・ダ・ヴィンチの木炭デッサン「聖アンナと聖母子」と答えます！ 見ているだけで幸せな気分になります。
アーティストでは、内藤礼さん。彼女が手掛けた空間に身を置くと、心が清らかに洗われるような不思議な気持ちになりますね。
――NHKでは、ずっと美術の番組を担当してきたのですか？
美術の番組を作りたくてNHKに入ったんですけど、最初は岡山放送局に配属され、その後生活情報番組などの制作に関わりました。美術番組を担当するようになったのは、1996年からです。
――生活情報番組などを制作していた頃の経験が、現在の番組作りに役立っているようなことはありますか？
ゲストの選び方に生かされていると思いますし、情報をいかに見やすく分かりやすく伝えるかという点では、生活情報番組も美術番組も同じですからね。美術番組って言うと、「難しい」とか「分かりにくい」とよく言われます。「びじゅチューン！」は、そういう“美術番組の壁”を低くしてくれた番組なのかなと。これまで、私たち作る側がちょっと上から行きすぎていたのかなという反省もあります。専門的な難しい言葉ばかり使っていたら、誰も見てくれなくなりますよね(笑)。
――では、「日曜美術館」の司会者の起用についても、そういった幅広い視聴者層に向ける意味合いが強いのでしょうか？
現在、司会を務めていらっしゃる小野正嗣さんは作家さんですし、過去には井浦新さん、俵万智さん、真野響子さん、西村由紀江さん、はなさん、姜尚中さん、千住明さんなど…、皆さん美術の専門家ではないんです。美術に対して、いろんな見方や楽しみ方を提案したいという思いがありました。
4K/8Kの本放送で、美術作品の新たな楽しみ方を
――NHKでは、12月から4K・8K本放送が始まります。倉森さんはこれまでにも、4K映像のドラマ「ビューティフル・スローライフ」を制作するなど、新しいプロジェクトに積極的に参加されていますね。
新しいメディアに挑戦する時って、いろんな新しいことができて面白いですよね。4K、8Kの映像は高精細でクリアであることはもちろんなんですけど、映像に臨場感が出るんです。
2年前、NHKとルーブル美術館の共同制作で「ルーブル永遠の美(59分)」という番組を制作した時にびっくりしました。8Kの映像で、カメラがゆっくり前に進むと、グランド・ギャラリーという奥へと長く続いている一番メインの展示室を本当に自分が歩いているような感覚になるんです。大きい画面で見ることもありますけど、その没入感はすごい。“画”がペタっとしていないんです。美術館に足を運んで、目の前で作品を見ている感じ。
そして、普通だったら見逃してしまうような作品の細かい部分もはっきり見えます。彫刻の陰影もそうですね。作品の魅力が今まで以上に伝わってくるような気がします。4K・8Kの美術番組を通して、作品の新しい楽しみ方をお届けできたらいいですね。
取材・文＝小池貴之
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