土村芳が語る“共感度0.1%”のカンヌ選出作品の魅力「その0.1%があるかもしれない可能性を感じてしまう」<インタビュー>
「共感できる0.1%がどこかにある」
――浮世さんだけでなく、森崎さんが演じる辻も普通の人なら選ばない方を選んで行動していきますが、森崎さんとは演技について話したりはしましたか?
森崎さんは積極的にアイデアや意見交換をしてくださる方で、「ここはこうしてみたらどう?」とかすごく聞いてきてくださりましたし、やりにくいところはないかとか、そういうところですごく密なコミュニケーションを取ることができました。
お芝居をさせていただく上で、2人の間に余計なものがないように、それを取り払う作業をしてくれていたんだろうなって思いますし、役を演じる以外でも主演としてすごく細かいところまで見ていらっしゃるなって印象もありました。
森崎さんの明るさに私自身も引っ張ってもらったところもあったので、助けていただくことがすごく多かったです。
――監督からは演出面でどんな指示があったのでしょうか?
撮影に入る前に、出演者の皆さんとリハーサルを何度かさせていただく機会があって、そこで会話の中のちょっとした間や、言葉の伝え方を事細かに演出していただくことで、シーンの持つ温度感や緩急を事前に感じることができました。
その分、現場ではリハーサルでの土台を経て、演者同士の間からその場に生まれるものをとても大切にしてくださっているのを感じましたし、浮世さんに関しては、男の人を惑わすようなセリフや行動を思わず取ってしまうときの細かなしぐさや目線、タイミングなどを、浮世さん独特の空気感を引き出すために、現場でいろんなことを試しながら探らせていただけました。
――撮影が進むにつれて、土村さんの中での浮世さんに対する印象は変わったりしましたか?
辻さんがいなくなってしまう前の浮世さんは、どこを目指して歩いているのか分からないようなすごく不安定な人なんです。とっても不器用ですし、その場でついうそをついてしまったり、予想外の行動に出たり、本当にめちゃくちゃな行動が目立つんですけど、その中にも彼女なりのひたむきさや、ちょっとピュアな部分がすごく感じられて。
辻さんがいなくなってしまってから、浮世さんが初めて自分から誰かを求める気持ちになれたのは、辻さんの存在があったからなんじゃないかって思うんです。
そこからの浮世さんは今までかすんでいた視界が開けるというか、進むべき道筋がようやく見えてきて、初めて浮世さんという女性の強い部分というか、軸になり得る部分がやっと少しずつ見えてきて、そこからすごく成長を感じました。
私が実際に演じさせていただいて、辻さんに向かって突き進むという固い決意に、それまでみたいな“ぐらつき”が減ったなって思いましたし、女性として少したくましくなった印象はありました。
――演じられた浮世さんに特別思い入れがあるとは思いますが、他にこの作品で好きなキャラクターを挙げるなら?
この物語に登場する人たちって本当にどの人も魅力的で、「この人!」っていうのは難しいですね…。決して幸せではない境遇でも必死に生きている様子って、すごく見入ってしまうものがありますし。
そうですね…、細川先輩(石橋けい)は「だいぶ心が痛むなあ」って見ていて思いましたね。感情移入してしまう女性も結構いるんじゃないかなという気はします。
――公式サイトの「カンヌ国際映画祭選出を受けてのコメント」で、深田監督が “共感度0.1%”という言葉を使っているんですが、そんな“共感度0.1%”の作品が評価されたのはどんなところにあると思いますか?
監督からその言葉を聞いたときに「あ、なるほど!」って思ったんですよ、この作品にピッタリな表現かもしれないなって。確かに私の周りでも、いろんな感想があっても「共感した」って言った人はいないんですよね(笑)。
それでも見てしまうのは、もしかしたらその共感できる0.1%がどこかにあるからじゃないかって気がします。実際には、この物語みたいな目には遭いたくないでしょうし、遭うつもりも絶対ないと思うんですけど(笑)、それでもその0.1%に関してつい考えをめぐらせたくなってしまうというか。
その0.1%があるかもしれないという可能性を感じてしまうから、この人たちが一体どうなってしまうのかを最後まで追いかけたくなってしまうのかなって思います。